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日本がW杯8強以上を狙うために。
今の武器はまだリアリズムなのだ。

posted2017/09/10 09:00

 
日本がW杯8強以上を狙うために。今の武器はまだリアリズムなのだ。<Number Web> photograph by Takuya Sugiyama

「華麗な崩し」という響きは甘美である。しかしそのレベルに達する代表は世界でも数少ない現実を見つめるべきだ。

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井川洋一

井川洋一Yoichi Igawa

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Takuya Sugiyama

 出だしに躓いて、最後に成功を収める──。フットボールにはそうした事例がいくつかある。

 ペップ・グアルディオラは2008年にバルセロナで初めて指揮を執ったリーガで負け、翌節も引き分けたが、1年目から3冠を達成。アントニオ・コンテも昨季プレミアの序盤に連敗したことで無敵の布陣にたどり着き、イングランドにデビューしたシーズンにプレミアリーグを制した。

 周知の通り、ヴァイッド・ハリルホジッチもワールドカップ最終予選を黒星でスタートした。その時はメディアが過去のデータを調べて、「ワールドカップ出場に黄信号」と報じたが、最後はしぶとく勝って案外スムーズにロシアへの切符を手に入れた。

 オーストラリア戦後、最も際立ったパフォーマンスを見せた吉田麻也は「あの報道で僕らは目が覚めた」とオーストラリア人記者からの質問に答えていた。その意味では、危機感を喚起したメディアも予選突破の一助を担ったと言っていいはずだ。

「日本国民全員の勝利です」とハリルは言った。

 またサッカールー(オーストラリア代表の愛称)の多くが、「日本には約6万人の後押しがあった」と大観衆のサポートを敗因に挙げていたように、ファンの力が日本の選手たちの背中を押していたことも間違いない。たしかに、あの日の埼玉スタジアムには、いつもと明らかに違う空気の震えがあった。

「日本国民全員の勝利です」

 滑り出しに失敗しながらも(まずは最低限の)成功を収めたボスニア・ヘルツェゴビナ人監督は、試合後の会見でそう切り出した。過去に文字通りの戦火や修羅場、裏切りを経験してきた彼の表情にも、疲労と安堵が隠れることはなかった。

 殊勲の指揮官が会見場に入ってくるとき、記者たちは万雷の拍手で迎えた。その気持ちは日本に住む多くの人が共有していることだろう。

【次ページ】 我慢と潔さ、闘うことが日本人に向いているか。

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