松山英樹、勝負を決める108mmBACK NUMBER

松山英樹、6年ぶりの悔し涙の意味。
彼は確かに最終日の首位に立っていた。 

text by

舩越園子

舩越園子Sonoko Funakoshi

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photograph bySonoko Funakoshi

posted2017/08/15 08:30

松山英樹、6年ぶりの悔し涙の意味。彼は確かに最終日の首位に立っていた。<Number Web> photograph by Sonoko Funakoshi

松山英樹は、確かに最終日の首位に立っていた。優勝が目前にある、という状況の経験は確実に彼をまたひとつ強くしたに違いない。

松山の涙は、脆い自分になってしまったこと。

 前週はブリヂストン招待を見事に制覇し、世界選手権2勝目、米ツアー5勝目、今季3勝目を挙げたばかりだった。勝利を重ねて得た手ごたえと自信は彼のゴルフの土台となり、練習と努力を重ねて得た技術は彼の土台の上にしっかりと立つ柱だった。

 だがこの日は、11番の第2打というたった1つのミスが発端となり、松山のゴルフが揺らぎ始めてしまった。必死に立て直そうとして「14番、15番はバーディーが取れた。でも……立て直せなかった」。

 土台も柱も揺らいでしまったら、それを立て直そうとしたところで、すぐに崩れ落ちてしまう。そんな脆いゴルフになってしまったこと。そんな脆い自分になってしまったこと。その脆さが「不甲斐ない」。ホールアウト後に流した松山の悔し涙は、そういう涙だった。

松山英樹よ、悔し涙に胸を張れ。

 だが、2度目の悔し涙には、不甲斐なさ以外に、もう1つ別の意味が含まれていることに、松山はまだ気が付いていないのかもしれない。

 最終日、彼はメジャー優勝に限りなく近づいたという実感を生まれて初めて五感すべてで感じ取った。だからこそそれが幻と化したショックが今まで最大になり、それが悔し涙になった。

 メジャー優勝をすぐそばで実感できたのは、彼が生まれて初めてメジャーの舞台で首位に立ったからだった。それは、7番のバーディーを奪って首位に並んでからのわずか4ホールしか有効期間のない首位だった。脆く、はかない首位だった。

 だが、彼は確かにメジャーの最終日にリーダーボードの最上段に立っていた。それは彼が初めて踏んだ大きなステップであり、その事実には堂々と胸を張っていい。

 そこから先で崩れたこと、立て直せなかったことも事実だが、それが新たな糧になるのなら、崩れたら事実、負けた事実にも胸を張っていい。

 そして、日本の人々、米国の人々、いや世界中の人々に夢を見させてくれた。ドキドキさせてくれた。その事実に何より胸を張っていい。

 最初の悔し涙を糧にしてビッグになった松山英樹が、今年の全米プロで流した2度目の悔し涙。それは、3度目の涙をうれし涙にするための涙だったのだと振り返る日が、いつか必ず来るはずだ。彼なら、そうできるはず。

 だから松山英樹よ、悔し涙に胸を張れ――私は彼に、そう言ってあげたい。

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