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清原和博、独占告白2時間6分。
笑みはなく、手は緊張で震えていた。 

text by

鈴木忠平

鈴木忠平Tadahira Suzuki

PROFILE

photograph byTakuya Sugiyama

posted2017/06/29 08:00

清原和博、独占告白2時間6分。笑みはなく、手は緊張で震えていた。<Number Web> photograph by Takuya Sugiyama

電話の声は、うれしそうに弾んでいたが……。

「僕も高校の時のことはよく覚えています。どんな形でも打ち取ればいいという投手はたくさんいますが、彼らはそうじゃない。真っ向からぶつかってくる投手というのは、どれだけ時間が経っても覚えているものなんですよ」

 電話の向こうの声はうれしそうに弾んでいた。ほとんど淀みなく、はっきりとした口調だった。3月に保釈となった後、どのように暮らしているのかは謎だったが、わずかながら光や希望を見出しているのかもしれない。そう思えるような歯切れの良さだった。

 そして電話の声は最後にこう言った。

「謝罪ができないまま、ズルズルときてしまいました。何とか早く、皆さんに謝罪したいと思っています。今はカーテンを閉めたままの生活で、精神的にも肉体的にも、誰かに会える状態ではありませんが、1日も早く、更生して戻りますから。待っていて下さい」

 言葉通りにとれば、前向きに思えるかもしれない。だが、私はこの瞬間ゾクッとした。言い知れぬ危うさを感じた。

 ああ、そうか。

 この人は、ずっとこうやって生きてきたのだ。

 おそらく16歳の夏、高校1年生で甲子園の頂点に立った瞬間から、周りの誰かが描いた「清原和博」たらんと、その期待に応えることで生きてきたのだ。

「今はもう自分のことだけを考えて」

「他者が願う自分」であろうとする人生はどんなものだろう?

 そういう人は本当の自分と向き合い、心の奥にひそんでいる弱さを見つめることができるのだろうか?

 人生のどん底にいるにもかかわらず、今しがた電話で初めて話したばかりの、何者かもわからない私の期待すら背負おうとしている元スーパースター。

 私はやり切れなくなって思わずこう言った。

「これまで、いろいろな人の期待を背負って、それに応えようとして生きてこられたんですか。もしそうなら、今は自分のことだけを考えてもいいんじゃないですか? もう誰かの期待を背負わなくていいんじゃないですか?」

【次ページ】 「本当に……ありがとうございます……」

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