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清宮が5三振でも勝つ早実の精神。
スポ根な努力より、自由こそが強さ。 

text by

中村計

中村計Kei Nakamura

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photograph byNaoya Sanuki

posted2016/11/04 17:00

清宮が5三振でも勝つ早実の精神。スポ根な努力より、自由こそが強さ。<Number Web> photograph by Naoya Sanuki

5打数5三振でも劇的なサヨナラ勝ちで優勝。主将・清宮は厳しいマークを受けてもチームメートたちが奮起した。

「努力」に付着しやすい「自己陶酔」を否定する。

 早実は、そもそも練習試合数が少ない。強豪私学であれば年間100試合近くこなすものだが、早実はその半分に届くかどうかだ。

 早実は単純に、練習すれば強くなる……といった世界とは、違うところで野球をやっている。和泉がこんな話をしていたことがある。

「急に打ち出したりすると、あのときの努力が実ったとか言うけどさ、俺、そんな簡単なもんじゃないと思うんだよね。たまたまバイオリズムの波が来ただけかもしれないじゃない。そんなに練習しなくても、打てるようになってたかもしれないよ」

 和泉は、日々の鍛錬そのものを否定しているわけではない。ただ、高校野球の世界で使われる「練習」「努力」という言葉には、とかく「やらされている感」や「自己陶酔」が付着しやすい。そこを警戒しているのだ。

 和泉が言いたいのは、要は、やりたくないならやるな、ということだ。

 おそらく、和泉の指導者としてのいちばんの才能は「待つ」ということだ。

「監督は抑え気味ぐらいで調度いいんだよ」

 この夏、西東京大会の準々決勝で敗れた後、和泉はこう自分を戒めていた。

「負けると、監督って、つい選手を追い込みたくなるもんなんだよ。でも、それをやると秋の前に故障者が続出したりする。だから、こういうときこそ、変えない方がいい。抑え気味ぐらいでちょうどいいんだよ」

 そうして、待ちに待って、関東一高戦の前で、初めてムチを入れた。

「ここに勝たなきゃ、先はないぞ。試合までの1週間は、関一戦のためだけにやれ」


 その言葉で選手たちは初めて同じ方向を向いた。早実は普段、自由にやっている分、チームとして一体感が出てきたときのスケール感が違う。

【次ページ】 「スポ根」的な日本のスポーツ観から自由だ。

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