サムライブルーの原材料BACK NUMBER
ハリルはなぜ何度も前言を覆すのか。
浅野の起用からわかる「超現実主義」。
posted2016/09/13 07:00
text by
二宮寿朗Toshio Ninomiya
photograph by
Takuya Sugiyama
論語に「駟(し)も舌に及ばず」という言葉がある。
一度口に出した言葉は、四頭立ての馬車が追いつけないほど広まるのが早い。だから言葉は慎重に選ばなければならないとの意味だ。
ヴァイッド・ハリルホジッチはそんなことなど気にしない。まったくと言っていいほどに。
多弁かつ、踏み込むだけ踏み込もうとする。タイ戦では「中盤で考えている」(UAE戦後の会見)原口元気を左サイドで使い、「ドイツで成長するはずの選手だったが、(帰国した)今の状況ではA代表の先発になるのは難しい」(8月5日付スポーツニッポン)山口蛍をスタメンで起用した。選択肢を狭める発言をするから確かにツッコミどころは満載だ。
これらの言葉だけをピックアップすると“ブレた”ようにも思えてしまうのだが、原口については元々、メンバー発表でウイング枠に入れているし、山口については「A代表では毎回素晴らしいプレーができている」(メンバー発表会見)などと変わらぬ信頼も口にしている。
順風のときの言葉はエッジが効いていても受け入れられやすいが、逆風になると余計な一言になって己の首を絞めかねない。UAE戦で微妙な判定を繰り返したカタール人主審に対する“恨み節”は、言い訳と受け取られてしまうのがオチ。本人がいくら「私は言い訳などしない」と強調したところで、本意でない方向に流されていくものだ。
采配が当たっても、ハリルは誇示しない。
保身に走る人なのか、言い訳の人なのか。
一つ言えるのは、リアリストであるということ。
彼は自分の采配が当たっても、誇示しないところがある。タイ戦で先発に抜擢した浅野拓磨が結果を出したなら自分の采配をもっと誇ってもいいはずなのだが、彼はそうしていない。
思うに、浅野に期待できるだけの「現実」があったから。予期したとおりの出来事に誇張はいらないものである。