スポーツ百珍BACK NUMBER
清水恭孝監督と立川談志の共通点。
國學院久我山が貫く「超現実主義」。
text by
茂野聡士Satoshi Shigeno
photograph byKyodo News
posted2016/01/08 10:40
國學院久我山は毎年東京大学にも合格者を出す進学校であり、高校サッカー界で異色の存在だ。
「最初のうちは言い訳する子もいますね」
久我山に話を戻そう。J1の下部組織出身だからと言って、特別扱いすることはない。むしろ現実を自覚させることによって課題に気づかせ、成長をうながす。洗練されたスタイル構築と同時に、メンタル面に対する働きかけも忘れていないのだ。
「中には、最初のうちは言い訳する子もいますね。でも『だったら、中学時代からその実力を出しておけばいいじゃん?』と接します」
思春期という多感な時期だからこそ、気づきが生まれるチャンスは多い。たとえば、2年生ながらレギュラーの座を獲得しているMF知久航介が象徴的だ。
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知久も中学時代、Jクラブのジュニアユースに所属していた。久我山では2ボランチ、もしくはアンカー的なポジションで、素早い展開、そして相手カウンターの危機管理をこなしている。周囲を生かしながら操って、試合をコントロールしていくタイプだ。
そんな知久だが、ジュニアユース時代の自身のプレーを甘かったと振り返り、自己変革に励んでいるという。
「自分の中学校の頃はキレイなサッカー、巧く見せることをイメージしすぎていた部分がありました。それが高校に来たことで、サッカー自体の土台に“闘う姿勢”があるんだなと気づきました。久我山も、その土台があってこそのパスサッカーだと思うので」
挫折は必ず訪れる。それを乗り越える力を。
知久の憧れは、バルサのセルヒオ・ブスケッツだという。
「クラブW杯を見に行って、存在感が本当にすごかったです。だからこそ自分のプレーを見て、ブスケッツ選手を連想してくれれば本当にうれしいです」
確かにプレーぶりが似ているね。こう伝えると、知久は満面の笑みを浮かべつつ、今までとは違う“ブスケッツ観”を語る。
「生で観戦して、攻撃以上に守備で凄みを感じたんですよね。足が長くて、ボールを刈り取るじゃないですか。あと『自分よりも後ろには行かせない』という気持ちを強く持っているんですよね。ブスケッツは足元の技術がしっかりしているから、キレイなプレースタイルに見えるんですけど、ハートの部分が土台にある。改めてそういったものも大事なんだなと思いました」
知久がそこに気づけたのも、久我山での2年間があったからこそ。そんな風に映る。
フィジカルだけ、メンタルだけ、テクニックだけ、ではない。すべての歯車が噛み合うことが、サッカー選手としてのスキルを飛躍させ、ひいてはチーム力アップへとつながる――。
「挫折は必ずどこかのタイミングで来ると思います。それを乗り越えられる力が一番大事だと思いますので」
シンプルだが、清水監督の言葉は「赤めだか」の談志のように、強い説得力があった。