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断じて「悲劇のヒーロー」ではない!
桐光・小川航基、“本気”の才能とは?
text by
安藤隆人Takahito Ando
photograph byNIKKAN SPORTS
posted2016/01/06 11:00
試合後、堪えられぬ涙を拭った小川(左から2人目)。この経験は必ずや大きな糧となって、この先の人生で彼を支えるはずだ。
“本気になれる”才能を持った稀有な存在。
小川航基という男は、どういう男なのか。
一言でいうと、彼は“本気になれる”才能を持っている選手だと言える。
「選手権日本一と得点王。そのためにやってきた」
この彼の言葉はリップサービスでも、ビッグマウスでもない。心の底からそう願い、疑うこと無く信じていた。
1年時から取材を続けてきて、この3年間で一番成長を感じているのは、メンタリティーの部分だ。精神的に強いという安易な言葉ではなく、彼は心の底から目標を信じ、それに向けて“本気で努力できる”能力を持っているのだ。これをこの3年間で磨き上げ、ストライカーに必要な「オーラ」を纏うまでになった。
中学時代、彼は目立つ存在ではなかったという。地元の大豆戸FCでプレーしていた彼は、ストライカーではなく、トップ下でゲームを作る選手だった。しかし、このポジションは激戦区で、選抜となると彼は横浜F・マリノスや川崎フロンターレの下部組織から押し出され、県の中体連選抜止まり。そんな彼の下に、桐光学園からオファーが届いた。
「高校サッカーに憧れて、最初から桐光に行くつもりだった。受験する予定でしたが、誘ってもらえたので迷わず決めました」
「お前はストライカーとしての素質がある」
入学すると、鈴木勝大監督に彼の今後を決定付ける一言をもらった。
「お前はストライカーとしての素質がある」
この言葉で彼の意識は変わった。自分の中には無かった「ストライカー」という称号。自分の心の中にストンと落ちていったこの言葉は、ここから彼を大きな成長へと導いた。
1トップとして1年の6月からレギュラーを掴む。だが、最初はポストプレーに徹したり、無理に仕掛けて止められるなど、パターンの少ないFWだった。彼を初めて見た時、スケールの大きさを感じた。動きが断続的で、裏への飛び出しなどには粗さを感じたが、前線での佇まいは大物感を漂わせており、時折見せる瞬間的な速さを活かしたフィニッシュには、大きなポテンシャルを感じた。
「自分の生きる道はここだと確信したんです! ストライカーこそ、自分が生きる場所だと……やるなら『本物のストライカー』になりたいんです!」
取材でそう語る小川の目は、いつも本気だった。
「本物になる」
心の底からそう信じている目だった。そしてその目は、取材で会う度に輝きを増していった。
高3になると、年代別代表に名を連ねるまでに成長した。そして、プレースタイルもポストプレーとパンチ力勝負だったのが、ゴール前のスペースに飛び込んでワンタッチで押し込んだり、さらに反転シュート、スルーパスに抜け出してのシュートと、多彩なゴールパターンを習得していった。