“ユース教授”のサッカージャーナルBACK NUMBER
断じて「悲劇のヒーロー」ではない!
桐光・小川航基、“本気”の才能とは?
text by
安藤隆人Takahito Ando
photograph byNIKKAN SPORTS
posted2016/01/06 11:00
試合後、堪えられぬ涙を拭った小川(左から2人目)。この経験は必ずや大きな糧となって、この先の人生で彼を支えるはずだ。
チームを勝たせることがストライカーの役目。
「2年の時から、点を取るだけでなく、チームを勝たせることがストライカーの役目だと意識してきました。自分のチームだと思ってやってきました。新チームが始動した時、僕は本気で優勝したいと思った。優勝するためには、僕が得点王になるつもりでないと。でも、これは1人の力じゃ絶対にできない。だからこそ、周りの選手たちも全員本気にしたい」
この言葉通り、彼はキャプテンとして、エースストライカーとして、プレーだけでなく、精神的にもチームの看板を背負い、周りを鼓舞し続けた。鋭かった目は、ますます研ぎ澄まされていき、それが彼の「オーラ」をより色濃くしていった。
「おい!! こんなんでいいのか? 本当にこだわってやってるか? 日本一取る気あるのか!!」
桐光学園の練習取材に行くと、いつも彼の厳しい声が飛ぶ。自身が足をひねり、練習を途中で休むことになっても、彼はゴール裏のベンチに居続け、仲間のシュート練習の1つ1つに声をかけ続けているほどだった。
日本一になる気持ちをどこまで本気で持てるか?
彼の「本気」はチームにどんどん浸透していった。練習の姿勢や試合で問題があると、小川を中心に選手だけで2~3時間ミーティングを開くこともあった。
「日本一になるためには、まず『日本一になる』という気持ちをどこまで本気で持てるか。そのためにはどんな誘惑にも負けないし、気持ちがあればどんなことも乗り越えられる。そう信じている」
小川の「本気」が乗り移ったチームは、2年ぶり9回目の選手権出場を決める。初戦の長崎南山戦で小川の2ゴールを含む3点を奪い快勝すると、3回戦の青森山田戦でも試合序盤において圧倒的な攻撃力で押し込み続け、小川の2ゴールで2-0のリードまで奪った。
「今回は確実に点を取れる確信がありました。焦ったり、力んで、『自分、自分』となった訳でもなく、いつも通りでやれた」
青森山田戦の2点目はまさに彼の成長を形にしたゴールだった。
イサカのセンタリングはライナーで、しかも伸びてきた。
「イサカが切り返した瞬間に、ファーに来ることが分かった。ボールが来て、最初は首を振って叩き込もうと思ったけど、途中でボールが伸びて、首を振ったらふかしてしまうと思った。なので、首を振らずに、頭を空中で残して当てるように切り替えた。ボールを頭に吸収させるイメージにした」
瞬間的に小川は判断を変え、長い滞空時間のヘッドを決めた。これは高い身体能力はもちろん、ストライカーとしての冷静な判断と、それを身体に伝える本能によるものだった。