スポーツ・インサイドアウトBACK NUMBER
ゴールドシュミットと山田哲人。
~3割30本30盗塁達成なるか!?~
text by
芝山幹郎Mikio Shibayama
photograph byGetty Images
posted2015/08/29 10:30
2013年には本塁打王も獲得したゴールドシュミット。高校時代は指名順位が低かったのでプロには進まず進学、大学時代は学業でも優秀な成績を残したという。
全体246位指名のゴールドシュミットは「遅咲き」!
なかでも面白いのは、もうじき28歳になる「遅咲き」の一塁手ゴールドシュミットの存在だ。OPSはハーパーに次いで大リーグ全体で2位(1.012)だが、盗塁数を見ると、20対5とハーパーに大差をつけている。
ゴールドシュミットは、野球エリートではない。ドラフト指名は8巡目(全体で246位)。ダイヤモンドバックスは、彼の前に内野手を5人も指名していたくらいだから、期待度の低さは察しがつく。テキサス州立大学最後の年には、57試合に出場して3割5分2厘/18本塁打/88打点の好成績を残していたのだが、評価はいまひとつ上がらなかった。
理由のひとつは、彼が「のっそりした」学生だったことだ。187cm/101kgはサイズが大きい。ビリー・ハミルトンやディー・ゴードンの姿を思い浮かべれば納得がいくだろうが、盗塁数上位選手の平均体型は180センチ弱/80キロ弱といったところだ。加えて、ゴールドシュミットには俊敏な印象もない。実際、打席から一塁へ到達するには、いまでも4.4秒かかる。トラウトが4.0秒だから、けっして足が速いとはいえない。
アリゾナという地味な球団にも、才能はいる。
ではなぜ、ゴールドシュミットは盗塁の数を増やすことができたのか。最大の武器は頭脳だ。ゴールドシュミットは、投手の癖を盗むのが巧い。リードは状況に応じて大きく取るし、刺殺をあきらめた捕手が送球しようとしないシーンもしばしば見られる。ゴールドシュミット自身、あるインタヴューで《左投手が一塁走者をまったく見ようとしないときは、かならず牽制してくる。逆に、やたら睨みつけてくるときは、打者に投げようとする前兆だ》と述べている。格別ユニークではないが、聡明さを感じさせる発言ではないか。
だが、ゴールドシュミットの持ち味は、なんといっても打撃だろう。'13年の彼は、本塁打と打点の2冠を獲得し、MVP投票ではアンドルー・マッカッチェンに次いで2位につけた。今季の彼は、打点王と首位打者が有望だ。打点はノーラン・アレナド、打率はゴードンやハーパーが強敵だが、安定性からいうとゴールドシュミットに分があるのではないか。MVP投票でも、もしハーパーが失速すれば、俄然ナ・リーグの最有力候補に躍り出るにちがいない。アリゾナという地味な球団に所属しているからといって、こういう好選手を見逃すべきではないと思う。