野球クロスロードBACK NUMBER
「あれは誰だ?」は最高の誉め言葉。
DeNA高城俊人の、別人の如き成長。
text by

田口元義Genki Taguchi
photograph byNIKKAN SPORTS
posted2015/05/14 10:40

昨年オフには「課題は打力です」と明言していた高城。写真右は、“小さな大魔神”としてブレイク中で同い年の山崎康晃。
本塁打の残像を頭から消した泥臭い勝ち越し打。
犠牲フライで同点とした直後の2死三塁の場面。この絶好機で高城はライト前にしぶとく運び、勝ち越し打を放ってみせた。その打撃は、中畑清監督も絶賛していたほどである。
「変わりましたねぇ。球際の強さが出てきた。成長しているね。あれは誰だ?(笑)」
きっと別人なのだろう、と冗談を言っておどけてみせた指揮官ではあるが、それだけ高城の変貌を喜んでいる証拠でもある。
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それは、本人の回想からも窺えた。
「(第2打席での)ホームランの残像があったら絶対に打てないと思ったんで」
好感触の一発は麻薬のようなものだ。「あれはたまたま」と認識しているつもりでも、本能ではそれを求めている自分がいる。その感情を抑えきれず、スランプに陥ってしまう。そんな打者はプロでも少なくない。
しかし高城は、その甘美なまやかしを制御し、泥臭い打撃を望んだ。これこそが彼の成長であり、現在、壁を乗り越えつつある大きな要因となるはずなのだ。
抱きつづける危機感が成長の原動力となる。
そして、彼が持つ危機感もまた、成長には欠かせない意識となる。
「今日、打てなかったらファームに落ちることもあったと思うんで」
この試合の時点で打率4割4分4厘。5月11日時点でも、12試合の出場ながら捕手陣では群を抜く4割1分7厘を残している。本来ならば、そんな言葉を発する必要はない。
だがそれも、高城がこれまでの3年間、苦い経験をしてきたからこそ言えることなのだ。
2012年は高卒ルーキーながら一軍でスタメンマスクを経験し、翌年の自主トレは谷繁元信と共に行ない継続することの大切さを学ぶなど、貴重な時間を過ごした。春季キャンプなどで誰よりも練習する、居残りでティー打撃をしている最中に他の捕手が加わると「俺だけにやらせてくれよ」という、現在にも繋がる貪欲な姿勢にも多大な影響を与えてくれたといってもいいだろう。
'13年は球団の捕手としては史上最年少の開幕スタメンを勝ち取った。正捕手の階段は高城のために用意されているのだと思わせるぐらい、その歩みは順調だった。