REVERSE ANGLEBACK NUMBER
ブラインドサッカーの魅力と危惧。
見る者を圧倒する激しい“肉弾戦”。
text by
阿部珠樹Tamaki Abe
photograph byMoto Yoshimura
posted2014/11/27 10:30
ブラインドサッカー世界選手権で繰り広げられた、ブラジルとコロンビアの試合。「なぜそのプレーが出来るのか」。初めて観戦した人間は多くの場合そう思うという。
華麗な足技、それ以上に驚かされるコンタクトプレー。
サッカーと違い、パスはほとんど使わない。パスの相手を視認できないので、ボールを奪ったら、基本的にはドリブルで前進していく。ボールを足に吸いつかせるようにしてドリブルしながら運ぶ。
見に行ったのは優勝候補のブラジルとコロンビアの試合だったが(ワールドカップなら大注目のカード)、ブラジルのボール扱いの巧みさはさすがだった。ある選手が自ら浮き球にしてコロンビアのふたりの選手を抜こうとするテクニックを見せた時には、観客も騒然となった。
しかし、足技以上に驚いたのはコンタクトプレーの激しさだ。ドリブルで前進してくる相手を、守備側は体を張って止めようとする。攻撃側も「かわす」というスタイルはほとんど取らず、接触をいとわないで弾き飛ばすように向かっていく。ブラジルにはふたり、突進力に優れた選手がいたが、その胸板の厚さはラグビー選手を思わせた。
聴覚以外の感覚も大事になる。
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ゴールボールなどは接触プレーがないから、聴覚が生命線になる。見ているほうも、視覚障害者はその分聴覚が優れているのではという先入観を持っているので、静寂の中のプレーはより神秘的に感じられる。
だがブラインドサッカーでは聴覚以外の感覚も大事になる。接近戦が多いので、相手と接触した時に感じる強弱はつぎのプレーの大事な材料になる。立ちはだかるのがだれかを識別する時には、相手の体臭だって判断材料になるかもしれない。接触プレーで負けない強靭な筋力も身につけなければならない。
見ていると、現代サッカーのモダンな戦術、システマチックな試合運びとは相当な距離があり、そこがかえってプリミティブな魅力になっていた。