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錦織圭、フェレールを下し準決勝へ!
崩れたプランと、頭の中の引き出し。
posted2014/11/14 11:20
text by
秋山英宏Hidehiro Akiyama
photograph by
AFLO
ラウンドロビン(4選手による総当たり戦)第3戦を迎える時点で、グループBの4人全員に準決勝進出のチャンスがあった。先頭を走るのは2勝のロジャー・フェデラー(スイス)、錦織圭は1勝1敗でアンディ・マリー(イギリス)と並んでいる。第3戦に勝てば4強入りに大きく前進するが、負ければ可能性がしぼむ。まさに剣が峰の一戦だった。
対戦するはずだったミロシュ・ラオニッチ(カナダ)には4勝1敗と勝ち越しているが、今年、ウィンブルドンで初黒星を喫していた。5セットにもつれこみ、4時間19分かかった全米4回戦など、勝った4試合はいずれも接戦だった。
錦織は前日と試合当日の午前中、リターンからのアタックとネットプレーを念入りに練習した。ラオニッチのセカンドサーブを攻め、ストローク戦で優位に立てばすかさずネットをとる――そんな戦術を想定していたに違いない。
試合2時間前の対戦相手変更で、戦術はご破算。
周到な準備で試合を迎えようとしていた錦織に、対戦相手変更の知らせが届いたのは試合開始2時間前だった。ラオニッチが右足太ももの負傷で棄権、補欠で待機していたダビド・フェレール(スペイン)が代わりに出てくるという。
戦術面の準備はご破算。ラオニッチ脱落で、準決勝進出の「シナリオ」も書き換えられる。決戦前のナーバスな選手心理を大きく揺さぶるハプニング。どんな選手でも、平常心で臨むのは難しい状況だろう。
一方、2週前のパリで錦織に敗れ、一度はツアーファイナル進出の望みを絶たれたフェレールには、降って湧いたようなチャンス。対戦成績3勝5敗の錦織にこの大舞台で雪辱すれば、苦手意識も払拭できる。準決勝進出は無理でも、1勝するだけで200点というランキングポイントのボーナスも手に入る。しかも、それほど球足の速くないこのコートは、フェレールが力を出しやすい環境だった。
両者の決定的な違いは精神面だろう。失うもののないフェレールのメンタル面での優位は動かない。常にハングリー精神という抜き身の刃(やいば)を懐にしのばせるフェレールは、この舞台で最も戦いたくない相手だった。