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シートはあっても絆がなければ。
可夢偉とケータハム、信頼回復は?
text by
尾張正博Masahiro Owari
photograph byGetty Images
posted2014/09/09 10:30
イタリアGPのプレビューに登場した小林可夢偉。エアアジアから中東の投資家グループに売却されたケータハムの行く末にも注目が集まっている。
「ここに来たら、レースをやるのが僕の仕事」
だから「僕はここにレースをやりに来ているけど、チームはいまそういう感じではないような気がする」と、可夢偉は素直にイタリアGPに出場を喜べない。
「あの報道(メリがモンツァでスーパーライセンス取得のためにフリー走行を走ること)が本当ならば、僕は3欠目(3人目の補欠)みたいな存在でしょ」
ケータハムが可夢偉に代えて新しいドライバーを走らせるのではないかという噂は、チームオーナーが替わった7月から頻繁に流されていた。実際、複数の若手ドライバーのマネージャーがケータハムのモーターホームを7月から8月にかけて訪れている。
そういう状況をチームの中にいる可夢偉が知らないはずがない。それでも可夢偉が、最下位のチームでありながらハンガリーGPまでケータハムで戦い続けてきたのは、チームが上を目指して戦っていると信じていたからである。だから、チームがマシンをアップデートさせたベルギーGPで、自分を外した決定にいまも疑問を持ち続けている。
「ここに来たら、レースをやるのが僕の仕事だし、モチベーションとかそういうのは関係ない。でも正直、僕はどうしたらいいのか」
シートはあっても絆がなければ。
これまでのいきさつ、今後のこと、それらについて可夢偉は現在、弁護士を通してチームと話し合いを続けているという。可夢偉はイタリアGPに出場した。しかし、チームとの信頼関係は完全に修復したわけではない。
「今回ここに僕がいることを、自分が一番驚いています。なんか不思議な感じで……」
モータースポーツはコース上でだれが一番速いかを命を賭けて競う個人競技であると同時に、ドライバーが最高のパフォーマンスを発揮できるようチームが大金をかけてマシンを開発・セットアップし、レースでは的確な指示を送るチームスポーツでもある。そこに信頼関係がなければ競技が成り立たない。
全19戦中、最高速を記録するモンツァ。シートはあっても絆がなければ、ドライバーはアクセルを踏み続けることはできない。