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戦術は、攻めも守りも「1対1」。
アルゼンチンが誇る最強の“矛と盾”。
text by
北條聡Satoshi Hojo
photograph byGetty Images
posted2014/07/08 11:15
バルセロナではCBとしての出場がほとんどだが、アルゼンチン代表では本職のボランチに入るマスチェラーノ。運動量と危機察知、そして絶対的なボール奪取能力で広大なスペースを一人でカバーしている。
矛と盾、ロマンチストとリアリスト。
セサル・ルイス・メノッティとカルロス・ビラルド。前者が矛なら、後者は盾。まさにアクション(攻撃的)とリアクション(守備的)の関係にある。ロマンチストとリアリストと呼んでもいいかもしれない。つまり「おらが国のサッカー」がメノッティ派とビラルド派の2つに割れているわけだ。そして、どちらの「宗派」も世界制覇という野望を達成している。ある時は最盛期のスペインのように華麗なパスワークを操り、ある時はイタリアのように堅陣を固めてカウンターアタックを狙う。
どちらも、間違いなくアルゼンチンの顔なのだ。
では今大会のアルゼンチンはどうか。リオネル・メッシ、セルヒオ・アグエロ、ゴンサロ・イグアイン、アンヘル・ディマリア――人呼んで『ファンタスティック4』なんて話を持ち出せば、いかにもメノッティ派のサッカーを連想させる。言わば、アルゼンチンの「表」の顔だ。しかし今大会での戦いぶりをみれば、「矛のサッカー」ではなくビラルド派の「盾のサッカー」と言っていい。
守ると腹を決めたときのアルゼンチンは実に手堅い。
豪華アタック陣の派手なイメージが先行したせいか、どうやらベルギーの面々は「矛のサッカー」と勘違いしていたらしい。しかしアルゼンチンは早々と先制したら、適当に時計の針を進め、したたかにゲームをクローズさせていく。まさしくビラルド流のリアリズムだ。守る、逃げ切ると腹を決めたときのアルゼンチンは実に手堅い。ベルギーが懸命に試みた終盤のパワープレーも涼しい顔でやり過ごしている。
思い出すのは1990年イタリア大会だ。あの時も「凡庸なチーム」ながら、最終的にファイナルまで勝ち上がった。ひたすら耐えて、虎の子の1点を守り抜く。開催国のイタリアのお株を奪うカテナチオ戦法だった。しかも、攻撃のホットラインはたったの1本である。偉才ディエゴ・マラドーナとクラウディオ・カニージャのタンデムが勝ち上がるための命綱だった。カニージャが出場停止となり、命綱を断たれた決勝で西ドイツに敗れたが、勝利への執念には凄まじいものがあった。