濃度・オブ・ザ・リングBACK NUMBER
“最新型グレイシー”クロン、来襲。
格闘技復活への起爆剤となるか。
text by
橋本宗洋Norihiro Hashimoto
photograph bySusumu Nagao
posted2014/05/30 10:40
ヒクソンと共に会見に登場したクロン(左)。グラップリング技術は折り紙付きだが、打撃技術は未知数。スタンドでの打ち合いも決して拒まなかった父のスピリットは継承されているだろうか。
ヒクソンが「能力は自分よりもあるんじゃないかな」。
そんな息子を、ヒクソンはこんな言葉で褒め称えた。
「格闘技に真摯に取り組んできた息子がプロになることを誇りに思う。彼には技術だけでなく、格闘技のために自分を犠牲にする、ウォリアーのスピリットがある。能力は自分よりもあるんじゃないかな」
その一方で「MMAではデビュー戦だから、まずはレベルに見合った選手と闘って慣れていくことが必要。父親としては、彼のことを守りたいという気持ちも少しあるね」とも。伝説の男が見せた“親心”は微笑ましく、また格闘技界が積み重ねてきた歴史を感じさせるものでもあった。
UFCの登場とホイス・グレイシーの活躍によって、バーリ・トゥード=なんでもありの闘いとグレイシー一族の名声、柔術の技術は世界中に広まった。さらにヒクソンが日本で神秘的とさえ言える強さを発揮。そんな時に桜庭和志が登場し、ホイラー、ホイス、ヘンゾ、ハイアンとグレイシー一族に連勝することで大ブームを生み出している。
総合プロデューサーには須藤元気が就任。
クロンのMMAデビューも、こうした歴史の延長線上にあるものだと言っていい。そして彼の物語は、コアな格闘技ファン以外に対しても訴求力があるはずだ。それくらい、ヒクソン、グレイシー一族の名前は大きい。総合プロデューサーにHERO'SやK-1 MAXで活躍した須藤元気を起用したことからも、『REAL FIGHT CHAMPIONSHIP』が“世間”を強く意識していることが感じられる。
新たなロゴマークのデザインからマッチメイクまで手がけるという須藤は、会見で「コアなファンを大切」にしながら「一般層がワクワクする、老若男女が楽しめる」大会にしたいと抱負を語った。山田代表によれば、地上波での中継も目指しているそうだ。
もちろん、現段階ではすべてが未知数だ。日時と会場、視聴環境、マッチメイクはまだ発表されていないし、日本での格闘技ブーム全盛期と比べ、インターネットの普及もあって“世間”のあり方も変わってきている。
ただ、そうした要素を差し引いてもなお、クロン・グレイシーという存在は魅力的だ。“ヒクソンの息子”“最新型グレイシー”として、過去を背負いながら未来を築いていくことになるクロン。その“血の物語”は大きな可能性を秘めている。