濃度・オブ・ザ・リングBACK NUMBER
ピーター・アーツの“大”引退試合は、
日本格闘技界の美しき青春の終わり。
text by
橋本宗洋Norihiro Hashimoto
photograph bySusumu Nagao
posted2013/12/25 16:30
大会前には京都の大徳寺に眠る盟友アンディ・フグの墓参りに行ったアーツ。彼のキック人生だけでなく、Kというひとつの時代に終止符が打たれた。
会場は“あの頃”の匂いに満ちていた。
『GLORY13 TOKYO』で谷川氏が仕切ったとおぼしき部分は、“あの頃”の匂いに満ちていた。選手紹介VTRにはK-1全盛期の映像がふんだんに使用され、引退セレモニーのMCはK-1のリングアナウンサーだったボンバー森尾氏が務めている。
観客の多くは、いや記者席にいる人間の何割かも、GLORYの会場に“あの頃のK-1”を見に来たのだろう。アーツ、ボンヤスキーに別れを告げ、格闘技ファンとしての青春にピリオドを打つ。それが、見る者にとっての『大引退』だったといえる。
アーツの闘いは、青春時代の美しさを再確認させてくれるものだった。43歳、当然ながらかつてのようには動けない。現在のヘビー級トップファイターであるリコ・ベホーベンのローキックを被弾し、何度もマットに転がされた。
ボロボロになっても、前進をやめなかったアーツ。
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それでもアーツは前進をやめず、最後まで得意技である右ストレートとハイキックを繰り出し続けた。判定は2-1。ベホーベンの勝利となったが、ジャッジの一人が勝ったと判断するほどの闘いぶりをアーツは見せたのだ。
あまりにも美しい“青春の終わり”。だが青春が終わっても人生は続く。あるいは、また別の青春が始まる。これからは、ハイスピードかつノンストップの攻防でウェルター級トーナメントを制したニキー・ホルツケンや、秒殺KOでヘビー級の醍醐味を体現したダニエル・ギタ、それにベホーベンたちが時代を担うことになる。アーツとボンヤスキーを見るために集まった観客にも、彼らの魅力は伝わったことだろう。
大会後の会見で、アーツは言った。
「試合に集中してたから、これからのことは考えてなかったけど……選手を育ててGLORYに出場させたり、自分が持っている知識を伝えていけたらいいね」
いつか、アーツの愛弟子がGLORYのトップ戦線で活躍する日が来るのかもしれない。その時、アーツはK-1の名王者として以上に“○○の師匠”としてファンに認識されることになるはずだ。それが自然なことであり、そうやって歴史は紡がれていく。
青春に別れを告げるのは、次の時代を生きるためにほかならない。