濃度・オブ・ザ・リングBACK NUMBER
ピーター・アーツの“大”引退試合は、
日本格闘技界の美しき青春の終わり。
text by
橋本宗洋Norihiro Hashimoto
photograph bySusumu Nagao
posted2013/12/25 16:30
大会前には京都の大徳寺に眠る盟友アンディ・フグの墓参りに行ったアーツ。彼のキック人生だけでなく、Kというひとつの時代に終止符が打たれた。
12月21日、有明コロシアムで開催された『GLORY 13 TOKYO』のバックステージは、さながら同窓会だった。
久々に顔を合わせる記者、関係者の多さは驚くほど。かつてK-1を取り仕切っていたスタッフもいる。
GLORYはヨーロッパを中心にアメリカ、日本でも大会を行なうキックボクシングイベント。昨年大晦日にはさいたまスーパーアリーナでDREAMとの合同興行を開催したが、今回は谷川貞治氏を“ゲストプロデューサー”に招いた。K-1イベントプロデューサーとして2003年にボブ・サップvs.曙を仕掛けた、テレビ格闘技黄金時代の立役者だ。
末期にはファイトマネーの未払いが相次ぎ、K-1の体制変更とともにプロデューサーを辞任した谷川氏が「一回限り」で表舞台に戻ってきたのは、今大会でのピーター・アーツ、レミー・ボンヤスキー、セーム・シュルトの引退をバックアップするためだ。大会には『大引退』というキャッチコピーがつけられた。
3人合わせてK-1優勝10回という“大”引退イベント。
3人合わせてK-1 GP優勝10回。まさに“大”引退だ。ただ実際には、ボンヤスキーは日本ラストマッチであり(来年春、クロアチアでミルコ・クロコップと対戦することがアナウンスされた)、心臓病で「医師の許可が出れば試合を行なう」とされたシュルトは来日すらしなかった。アーツに関しても、GLORY本部側のアナウンサーが「日本での引退試合」という言葉を使っていたのが気になる。この大会に、半ば強引な“引退ビジネス”の側面があったことは否定できない。
とはいえ、これが最後の機会であることは確かだった。“あの頃”の空気に触れる最後の機会。アーツ、アーネスト・ホースト、マイク・ベルナルド、アンディ・フグたちがしのぎを削り、大会がゴールデンタイムに中継されていた“あの頃”は、多くの格闘技ファンにとって青春のようなものだったのではないか。