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<男子ゴルフ界の勢力図> 「遼世代」の台頭は、何をもたらしたか。
text by
三田村昌鳳Shoho Mitamura
photograph byTaku Miyamoto
posted2010/11/25 07:29
右上から時計回りに池田勇太、松山英樹、藤田寛之、片山晋呉
日本男子ゴルフ界は急速に若年化している。
終盤を迎えた今シーズンの戦いぶりから、勢いに乗る「遼世代」と、
技と経験を武器に戦う中堅・ベテラン勢のせめぎ合いに迫った。
若者たちの勢いに「ゴルフは経験が不可欠だ」という“従来の常識”をどう当てはめればいいのか、戸惑ってしまう。それほどまでに、今季は10代、20代前半の選手の台頭が著しい。
筆頭は、もちろん石川遼だ。
わずか3年前に15歳の高校1年生だった石川は、2007年5月のマンシングウェアオープンで優勝。その翌年にプロ転向し、以来石川遼旋風を巻き起こすと、それに続くかのように若くして才能を発揮する選手が現れてきた。
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日本プロツアーの優勝者の平均年齢を見ると、2008年は32.7歳だったのが、今年は22試合を終えた時点(11月14日)で、29.5歳。わずか2年間で、3歳以上も若返っている。
昨年、賞金王争いをくりひろげた石川(19歳)が今季3勝、池田勇太(24歳)が4勝をあげ(11月25日現在)、21歳の薗田峻輔は6月のミズノオープンでプロ転向後、初優勝を遂げた。
また、10月の日本オープンでは、東北福祉大学ゴルフ部で、アジアアマチュア選手権に優勝し、マスターズ出場権を得た18歳の松山英樹が、3位タイに食い込んで話題をさらった。さらに11月のVISA太平洋マスターズでは、中学3年生の伊藤誠道が、10位タイに入った。
いまや「遼世代」の選手たちが、日本のゴルフ界で縦横無尽に暴れているといってもいい。
若年化の背景にある“ボールが曲がらない道具”。
それでは、なぜ近年、急激に若年化したのだろうか。その理由のひとつに、道具の進化があげられる。
「遼世代」の彼らは、かつての道具――パーシモンヘッド(木製)のドライバーや重くて操作が難しいアイアン――でゴルフを覚えていない。
現在のドライバーは、慣性モーメントが大きく、飛距離、方向性とも格段に向上したチタンヘッド。それは、湯原信光曰く「昔の道具よりも、(ボールが)曲がりにくい。曲げようとしても3分の1しか曲げられない」ほどの進化なのである。
道具の進化に伴い、ボールも高い弾道でより遠くへ飛ぶように改良された。
タイガー・ウッズがプロ転向した翌年の'97年、ウッズの飛距離を分析したボールメーカーのデータによると、ドライバーの描く放物線の頂点の高さは26mだった。飛ばし屋の米ツアー選手で22mと言われていた当時では特筆すべき数字だが、現在の米ツアーの平均は27mである。つまり、高い弾道で飛ばすのが、標準的なスイングとなったのである。
そうなると当然、ホールの攻め方も変わってくる。湯原が言うところの「曲げるボールを操ることが技量を支える」という時代から、高さで木々を越す技量が問われる時代に変わってきたのである。高さで障害物を越え、グリーン上では、高いところからボールを落として止める攻略法が、若年層にとって主流のプレースタイルになった。
そんな若手の活躍が目立つ一方で、優勝者の平均年齢が、いまだ30歳に近いというのが、ゴルフゲームの面白いところである。