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ベッテルの相棒を射止めた24歳。
レッドブルの決断は“協調性重視”。
text by
尾張正博Masahiro Owari
photograph byREUTERS/AFLO
posted2013/09/08 08:01
レッドブルのドライバーという、出世への特等席を手にしたダニエル・リチャルド。24歳、大きく羽ばたくには頃合だ。
実績のないデーモン・ヒルが選ばれた理由。
同じ轍を踏みたくない。プロストとの相性を優先し、ウイリアムズが下した決断は、当時テストドライバーをしていたデーモン・ヒルの起用だった。ヒルは'60年代に2度チャンピオンとなったグラハム・ヒルの息子だったため知名度はあったが、F1ドライバーとしての実績はブラバムでの2戦のみ。優勝はもちろん、ポイントも獲得したことがなかったヒルの起用に、疑問を投げかける者も少なくなかった。
ところが、ヒルはこの大役を見事にこなした。'93年にプロストのチームメートとして1年間過ごした後、'94年にはセナをチームメートに迎えたが、そこでも問題を起こすことはなかった。1年目から優勝し、プロストとともに表彰台に何度も上がる活躍を披露。チームメートとの協調性だけでなく、ドライバーとしての能力の高さも披露したのである。人一倍、我が強いプロストとセナという2人のスーパースターのチームメートを経験し、見事にこなしたドライバーは、ヒルだけである。
その辛抱強さはミハエル・シューマッハの台頭によって我慢を強いられた'94年からの2年間でも変わりなく、CART王者、ジャック・ヴィルヌーヴをチームメートに迎えて戦った'96年に真価を見せ、念願のタイトルを獲得するのである。
リチャルドのおかれた状況は'93年のヒルと似ている。
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今回、レッドブル移籍が発表されたリチャルドは、現在トロロッソから参戦しているが、レッドブルの若手育成ドライバーの一員である。今年7月に行なわれたテストでもトロロッソだけでなく、レッドブルのマシンも担当しており、テストドライバーからレギュラードライバーに抜擢された'93年のヒルに状況は似ている。優勝したこともなければ、表彰台にも上ったことがないところも同じだ。したがって、そのような若者に、レッドブルのドライバーが務まるのかという疑問の声があることも確かだ。
だがモータースポーツでは、ドライバーの能力はその選手が持つ肉体的な資質だけでは決まらない。なぜなら、どのマシンに乗るかで、パフォーマンスが大きく左右されるからだ。そして、ここにモータースポーツにおいて、選手の能力を推し量る難しさがある。