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佐世保実業の木下愛、聖地で好投。
“見えない”方の目で何を見たのか。 

text by

阿部珠樹

阿部珠樹Tamaki Abe

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photograph byKyodo News

posted2013/08/21 10:30

佐世保実業の木下愛、聖地で好投。“見えない”方の目で何を見たのか。<Number Web> photograph by Kyodo News

木下投手は小学校4年生でソフトボールを始めた。怪我で視力は低下したが、中学校から野球部に入り、2年連続甲子園のマウンドに上がった。

昨年の教訓を生かし、甲子園で好投。

 テレビで見るときは、実況が苦手なので、音を消して見る。それで試合を見たときは、ただ、「いい投手だなあ」と思っただけだったが、翌日の新聞を見てびっくりした。木下君は片方の目に問題を抱えていたのだ。

 隻眼というのではなく、左目の視力が極端に低いということなのだが、新聞によると、左目の視力は0.04程度で、視界は5円玉の穴程度だというのだ。子どもの頃に近所の川に転落して、視神経に異常が出て手術をした。失明は免れたが、以来、左の視力が極端に落ちてしまったのだそうだ。

 ここまで一方の目が悪くなってしまうと、金属バットから強烈な打球が飛んでくる野球は危険がある。仮につづけたとしても、投手ならコントロールをつけるのは容易ではないだろうし、野手になっても送球も捕球もむずかしさがあることは想像できる。

 それでも木下君は野球をつづけ、高校ではエースになった。去年、甲子園で登板したときは7失点と打ち込まれたが、1年後のマウンドではその教訓を生かしたすばらしい投球を見せた。

目に頼らず、むしろ耳を存分に使った投球?

 恐怖感や違和感を克服して野球をつづけた本人はもちろん、バックアップした家族や、ほかの部員と違うサポートが必要だったに違いない監督や仲間も賞賛に値する。

 あとで隻眼に近いという肉体的条件を知ったから、後付けめいた分析になってしまうが、この日のすばらしい投球にはそのハンディキャップがプラスに作用していた気がしてならない。

 球威よりも自分のリズムを守り、ボールよりも間合いのよさで打ち取る。五感のうちの目に頼らず、むしろ耳、内なる聴力を存分に使ったような投球が、好投を生んだのではないか。

 まあ、こんなことを想像してしまうのは、隻眼というものに、ある種、ロマンチックな幻想を持ちつづけているからなのだが。

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