沸騰! 日本サラブ列島BACK NUMBER
震災、原発事故を乗り越えて――。
侍たちが力強く生きる相馬野馬追。
text by
島田明宏Akihiro Shimada
photograph byAkihiro Shimada
posted2013/08/02 10:30
野馬追2日目に行われた甲冑競馬。宵乗り競馬と同じ1000メートルのコースで行われ、8レースに全53騎が出場した。
活躍できなかった競走馬の受け皿として。
甲冑競馬の出走馬のほとんどが元競走馬である。この速さで勝ち負けを競うことができるのは、実戦経験のあるサラブレッドだけだ。
競走馬時代の倍近い斤量と、風の抵抗と、そして大きな音に耐えるだけのタフさが必要……となると、当然、デリケートな牝馬よりも、牡馬のほうが歓迎される。
空から落ちてくる旗を、ほかの騎馬武者たちと奪い合う神旗争奪戦にしても、馬群のなかに突っ込んでいく心身の強さがなければならない。これも牡馬のほうが有利だ。
競走馬としての成績が今ひとつでも、牝馬の場合、その多くが故郷の牧場に戻って繁殖生活を送ることができる。しかし、牡馬だとそうはいかない。引退後、種牡馬になれるのは、全体の5%にも満たない。乗馬になることができればまだいいほうで、行先が食肉市場だったりという、厳しい現実が待っている。
そうした状況において、この相馬野馬追は、競走馬として鳴かず飛ばずだった牡馬たちの大きな受け皿になっているのである。
避難先からの出陣となった2つの地域。
相馬野馬追は「三社五郷」の祭りであり、宇多郷(相馬市)、北郷(南相馬市鹿島区)、中ノ郷(同原町区)、小高郷(同小高区)、標葉郷(浪江町、双葉町、大熊町)の騎馬武者が、それぞれ供奉する相馬中村神社、相馬太田神社、相馬小高神社から出陣する。
総大将が出陣する相馬中村神社の厩舎を覗くと、2010年に中山大障害を勝ったバシケーン、三浦皇成騎手の初勝利の相棒フェニコーン、三冠牝馬スティルインラブの唯一の産駒ジューダ、トウショウモード、ホワイトエンジェル、サザンビクトルといった元競走馬が、野馬追出場に向けて準備をしていた。
相馬野馬追に出る馬の8割ほどが元競走馬だということを、筆者は震災後、原発事故の影響で居場所がなくなった「被災馬」の取材をするようになって初めて知った。
5つの騎馬郷のなかでも、小高郷と標葉郷の騎馬武者105騎は、全員避難先からの出陣となった。自宅が原発から20㎞圏内の旧警戒区域にあるため、震災から2年半近く経った今も、仮設や借り上げ住宅などでの生活を強いられているのだ。