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「縦へ速く」か「ポゼッション」か。
なでしこが見失った、立ち返る場所。 

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河崎三行

河崎三行Sangyo Kawasaki

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posted2013/07/30 10:31

「縦へ速く」か「ポゼッション」か。なでしこが見失った、立ち返る場所。<Number Web> photograph by AFLO

韓国に1-2で敗れたなでしこジャパン。東アジアカップでは、最終戦で中国を1-0で下した北朝鮮が優勝し、日本は2位に終わった。

『縦へ、速く』に必要な絶対的FWはいない?

 もし、そうしたアバウトな縦パスでも有効な攻撃として機能させようとすれば、受け止める側のトップの選手がアメリカのワンバックのように強さと高さを兼ね備えているか、同じくアメリカのモーガン、あるいはブラジルのマルタのようなレベルの快足とキープ力の持ち主でなければならない。だが残念ながら、日本にそのような条件を満たすFWはいない。

 それでも、新オプションを手の内に入れようとするのなら――確かに実現すれば、『緩』のポゼッションに『急』が加わるわけだから相手は的を絞れず、鬼に金棒となる――逆にパサーの方に、距離を問わず、ピンポイントで前線のFWにボールを入れられる選手を用意する必要がある。能力的には宮間あやと阪口夢穂、負傷が癒えれば澤穂希あたりなら適任なのだが、百発百中でパスが通るわけではない。縦パスが出る時は次の展開を予想してアタッカー陣が前掛かりになっているから、もしそこで敵にボールが渡れば、一気に数的不利な状況で攻め込まれてしまう。

 例えばだが、無理をしてできないこと、やり辛いことを追い求めるより、得意なこと、つまりポゼッションサッカーを研ぎ澄ませるのも、正常な進化の形態のひとつではないのか?

試合を重ねるたびに、自信を喪失していっているのではないか?

 このところ各国の研究が進んだとはいえ、今もまだ、日本ほど精度の高いポゼッションができるチームは世界にない。女子ワールドカップを制し、ロンドン五輪で銀メダルを得る原動力となった武器は、依然として最も頼りになる攻撃方法なのだ。そして同時に、日本選手の持つ特徴――技術の高さ、アジリティー、味方や相手の状況を読むサッカー知性、無駄走りを厭わない献身性など――を最大限に発揮できる、なでしこの存在証明にも似たスタイルでもある。

 その絶対の幹を脇へ押しやろうとするから、このところのなでしこは試合を重ねる度に自信を喪失する、という悪循環にはまり込んでいるように見える。

『縦へ、速く』という新しい枝葉を否定するものではない。だが今、最もチームに必要なのは、自分たちが立ち返るべき場所を再確認することではないだろうか。

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宮間あや
佐々木則夫
阪口夢穂
澤穂希

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