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サイドスローらしくない投球術!?
決勝戦で試される一二三慎太の真価。
text by
氏原英明Hideaki Ujihara
photograph byHideki Sugiyama
posted2010/08/20 20:20
フォームは変わったが投球術が変わっていない一二三。
「本人も辛かったと思う。サイドにして、一二三は終わったとか、駄目になったとか、そういう声が聞こえてこなかったわけではないですから」
そう一二三を慮るのは東海大相模・門馬監督である。指揮官自身も、さすがにこの日のピッチングには驚かされたようだ。充実感さえ口にしていた。
「神宮のときのような、ゆったりとした感じで投げていた。センバツで敗れて、今大会の初戦もそんなに良いピッチングではなかった。彼にとって、甲子園には良いイメージが無かったと思うんです。今回が、ひとつ、結果として見えてきた部分もあったんじゃないか」
とはいえ、これだけのピッチングを見せられても、すっきりしないのもまた事実である。
なぜなら、彼がサイドスロー投手らしくないからだ。
一般的に、サイドスローの投手は、「内に速く、外に緩く」組み立てるのが常だ。ストレートの球速がそう速くない投手が多かったため、インコースに速い球を見せて、外の変化球で打者を翻弄する。緩急をつける、いわゆる軟投派と言われる投球術だ。しかし、一二三にはそうしたピッチングスタイルは見えない。
オーバースローの時と同じような、アウトコースのボールで勝負する。もちろん、インコースに投げないわけではないが、彼の勝負球はアウトローのストレートなのだ。組み立ても、アウトコースの出し入れで勝負している。いわば、腕の位置が変わっているだけで、実は一二三のスタイルは変わっていない。
まだまだ可能性を秘める一二三に立ちはだかる興南打線。
3回戦のピッチングの後、門馬監督は「彼のピッチャーとしての可能性はまだまだ先にある。今日だけのピッチングでは評価できない」と話していた。「この甲子園で完成することはない」とも、付け加えた。
果たしてその可能性が、サイドから投げる今の一二三の姿にあると、そう捉えて良いのだろうか?
決勝まで昇って来た彼の力は誰にも否定はできない。フォームを大きく変えながらも、ここまで来たことは賞賛に値するだろう。
しかし、結論はまだ早いと思う。春夏連覇を狙う興南との決勝戦でこそ、サイドスロー右腕・一二三は、その真価が問われるのだ。
「疲れはあると思いますけど、それに関係なく、全力で行きたい。潰れてもいいくらいの気持ちで明日の試合に臨みます」
そう決意表明した、一二三慎太。
果たして、一二三は優勝投手になれるのだろうか。
一二三はサイドスローであって、良いのだろうか。