痛快☆ブブゼラ通りBACK NUMBER
失われた“ブブゼラ”を求めて。
~静寂の街で過ごすW杯の日々~
text by
熊崎敬Takashi Kumazaki
photograph byGetty Images
posted2010/07/02 16:00
いま、ヨハネスブルク郊外の緑豊かなペンションで、「痛快★ブブゼラ通り」第3回の原稿を書いている。
ここでの生活は、ネットがなかなかつながらないということを除けば、とても快適だ。日本代表がベスト16に進出した翌日には、女主人が僕らの離れに「日の丸」の旗を立ててくれた。
緑が生い茂る中庭には、ときどきくちばしの長い、風変わりな鳥が餌をついばみにやってくる。
さて、ワールドカップはいよいよ終盤戦に突入した。
24カ国が敗退して、残るは8カ国。優勝候補の国々にとっては、これからが本番といったところだが、大会が終わりかけているという物悲しさも感じている。
この物悲しさは、おそらくペンションや街中の静寂から来ているのだろう。バファナ・バファナと呼ばれる南アフリカ代表が、あっという間に敗退してからというもの、ブブゼラ音の洪水はスタジアムを除いて鳴りを潜めてしまった。
1年前のコンフェデでもそうだったように、ワールドカップ序盤戦では、時間と場所を構わず鳴り響くブブゼラのために、ノイローゼになりそうになった。
このペンションでも、バファナ・バファナの試合前夜、それも深い時間にブブゼラを練習する輩(その姿勢は評価したい)が現われ、安眠を妨げられた。一説によると、ブブゼラを美しく、力強く吹くことができれば、女性にモテるのだという(ほんとうだろうか)。
コンビニで見つけた“ブブゼラの新しい魅力”。
南アフリカにやって来る外国のファンの中には、プラカードを掲げてブブゼラ反対運動をする人々もいたが、僕はすっかり慣れてしまったようだ。
ブブゼラが聞けなくなった日常に物足りなさを覚えた僕は、「ブブゼラ的なもの」を探しに街に出た。
まず、CDショップで「VUVUZELA HITS」なる、素晴らしいDVDを発見。安くはなかったが、即座に買い求めた。あの一本調子で情緒のない民族楽器が、はたして曲になっているのか、興味をそそられたからだ。
期待に胸を膨らませてディスクをセットする。だが、失望した。ブブゼラが壮大に鳴り響くような曲は、ただのひとつもなかったからだ。収録されていたのは、南アフリカの最新ヒット。映像も、あまり面白くなかった。失敗。
その日、ガススタンドのコンビニで買い求めた「FHM」という男性誌に、「LA VUVUZELA」なる若い女性トリオの水着グラビアを発見した。
ああ、これはいい。
いま、南アフリカでもっともホットなグループらしく、紙面には、「あなたがモノトーンのトランペットのファンでないとしても、このバンドは、ブブゼラの新しい魅力を見せてくれるだろう」と、それらしいキャッチコピーが書かれていた。