リーガ・エスパニョーラ最前線BACK NUMBER
カンテラ出身選手を冷遇するレアル。
“育成”と“勝利”は相反する要素か?
text by
横井伸幸Nobuyuki Yokoi
photograph byGetty Images
posted2012/11/16 10:30
会長ペレス(左)の方針により、レアルのカンテラはトップチームに戦力を供給できずにいる。
カンテラ出身選手を冷遇する理由は低調なグッズ販売!?
元カンテラ関係者は不満げに語る。
「即戦力になるかどうかわからない選手を1500万ユーロ(約15億円)払って連れてくるのではなく、なぜカンテラの若者を5試合ほど試してみないのか? ケガ人が出たときバルサはまず下部組織に代替戦力を探すが、マドリーは外部に目をやるんだ」
マドリーのカンテラがこんな風になったのは'00年、ペレスが会長になってからである。
国際的なマーケティングとマーチャンダイジングを初めてリーガに持ち込んだペレスに、カンテラをトップチームのために役立てるという考えはそもそもなかった。無名の選手を使ったところで、グッズの販売は伸びないからだ。
“銀河系選抜”が一世を風靡していた頃、ちょうど先月のモウリーニョのような立場に置かれた当時の監督デルボスケは、カンテラ育ちのパボンやラウール・ブラボを使い、見事にチームを機能させた。
このときペレス会長は「ジダンたちとパボンたち」というキャッチコピーを用いて、世界的スターとカンテラ上がりの若者を混ぜ合わせたチーム作りを前面に押し出したが、これは嘘っぱち。カンテラに詳しく、当のパボンたちを勇気をもって起用したデルボスケを、タイトル獲得直後クビにしたのがその証拠である。
下部組織にも蔓延する「結果絶対主義」が育成を阻む。
だが、ペレスはカンテラを全く軽視しているわけではない。
'09年、再び会長に選ばれると育成部門全体の立て直しを図り、“工場”のオペレーションを改善している。ただ一方で、企業家であるペレス会長ならではの結果絶対主義も蔓延してしまった。
「選手を育てるというが、負けたら仕事を失うことをカンテラのスタッフの誰もが知っている」と元関係者。
こんな状況下にあっては、トップチームと連係した育成は難しくなる。選手の側からすると、「どういうサッカーをすべきか、方向付けされない」まま、与えられたシステムで勝利だけを目指すことになる。
モウリーニョがナチョではなくエッシェンに頼った理由のひとつがここにある。