詳説日本野球研究BACK NUMBER
東洋大と東海大の強さが際立った、
全日本大学野球選手権を総括する。
text by
小関順二Junji Koseki
photograph byNIKKAN SPORTS
posted2010/06/16 10:30
2011年のドラフト目玉候補同士の投げ合いとなった決勝は、東洋大・藤岡貴裕投手(3年)が5安打9奪三振の完封劇を見せた
第59回全日本大学野球選手権は、東洋大が東海大を破り2年ぶり3回目の優勝に輝いた。
藤岡貴裕(東洋大3年)がMVPと最優秀投手賞、伊志嶺翔大(東海大4年・外野手)が首位打者、菅野智之(東海大3年・投手)が敢闘賞、石山智也投手(4年)を擁しベスト8に進出した北海道大が特別賞と、納得のいく受賞者の顔ぶれになった。
試合後、東海大OBのマスコミ人は「あんな左投手、首都(東海大が所属するリーグ)にはいませんよ」と嘆いた。言葉を足すと、藤岡のような左腕は日本中探しても大野雄大(佛教大4年)くらいしかいないと思う。
好投手が目白押しの東都大学リーグ。
東海大のエース・菅野智之も得難い投手だが、東洋大が所属する東都大学リーグには澤村拓一(中大4年)、南昌輝(立正大4年)、東浜巨(亜大2年)など多士済々な本格派が揃い、好投手攻略の予習はリーグ戦で済ませていたといえる。
前日の慶大戦で142球投げた菅野の「疲労残り」をマスコミは敗因の第一に挙げるが、それだけではない。東洋大打線の徹底したスライダー狙いこそ、その勝因の第一に挙げなければならない。
1回は上原悠希(3年・二塁)、2回は佐藤貴穂(4年・捕手)、緒方凌介(2年・中堅手)、3回は再び上原、木村篤史(4年・左翼手)、6回は鈴木大地(3年・三塁手)、林崎遼(4年・遊撃手)がスライダーを打って3点目を奪取、菅野をマウンドから引きずり下ろした。8本の被安打のうち実に7安打がスライダー系統の変化球だったところに、東洋大の凄さを感じてもらいたい。
東海大・菅野はストレート、変化球とも抜群のキレ。
準優勝の東海大も素晴らしい戦いをした。初戦から白鴎大、大阪体育大、同志社大に連続してコールド勝ち(史上初)して4強に進出、準決勝は東京六大学の覇者・慶大に対して菅野が完璧と言ってもいい被安打4、与四球1、奪三振17の完封劇を演じた。
ストレートのMAXは155キロと速いが、この日の菅野は変化球も素晴らしかった。カーブ93~110キロ、チェンジアップ130キロ前後、フォークボール138キロ前後、そしてスライダーは縦130キロ前後、横134~138キロ程度、カットボール140キロ前後と多種多様で、それらを無駄なく、すべて使いこなした。
今リーグ戦までの菅野は、速いことは速いがスリークォーターより少し上から押し出すような腕の振りに特徴があり、ストレートは全般的に高めに浮き、外角主体の配球も物足りなかった。しかし、この大会では“潰す”リリースを会得したのか、ストレートが低目によく伸びた。とくに左右打者のアウトローに配するストレートは伸び、コントロールとも抜群で慶大打線から凡打・三振の山を築いた。