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<イラク代表監督として> ジーコ独占告白 「90分間、私は日本の敵になる」
text by
竹澤哲Satoshi Takezawa
photograph byKeita Yasukawa
posted2012/09/10 06:01
たしかに日本に対する知識はいくつか持っているが……。
着実な進化を遂げている日本代表と争う最終予選。イラク代表が勝ち抜くためのボーダーラインを、ジーコは「勝ち点で15点か16点だろう」と話す。
「ホームでの4試合すべてに勝利し、アウェイで1勝1分すれば、まず勝ち抜くことはまちがいない。しかしホームで4勝するのは簡単なことではない。第一、イラクはホームで戦うことができないのだ。埼玉スタジアムで6万人のサポーターの応援を受けて戦えるのとは異なる。私はクラブでも特にホームでの試合を重要視してきた。イラクでやれば5万人のサポーターに応援をしてもらえるのだが……」
日本を熟知するジーコがイラク代表監督をしていることは、日本人としては不安材料にも思えるが、彼は真剣な顔をして否定した。
「そんなことは信じない。たしかに日本に対するいくつかの知識は持っている。しかし私がいた当時と選手は変わっているのだ。ヨーロッパで経験を積んできた、優れた選手が揃っている。何人かの選手のプレースタイルなどは、私の選手たちに伝えることはできるだろう。しかしそれによってイラクが有利になるなどとは思っていない」
日本の頃と変わらない「ビリーブ・イン・シュート!」の叱咤激励。
イラク代表はドーハの地元クラブであるアル・アラビのグランドを借りて、朝と夕方、1日2回の練習を行なっていた。朝の練習は9時に始まるが、すでに太陽は高く、気温は40度を超えている。時折吹く熱風はまるでドライヤー、あるいはエアコンの室外機から出される熱気を全身に受けているような感覚だ。
インタビューの中で、ジーコは「クラブや国が変わっても私のサッカー哲学は変わらない。そしてサッカー言語は世界共通であるという見方も変えていない」と話していた。たしかに、じっとイラクの選手たちの動きを見守っている姿は、日本代表監督時代を思い出させるものだった。セットプレーの練習で自らもボールに絡みながら、「ビリーブ・イン・シュート!」と英語で叫んでいる様子も、かつて日本の選手を叱咤激励していた頃とあまり変わりない。