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伝説が観たいなら是非地方大会へ!
夏の高校野球、要注目の5都府県。
text by
小関順二Junji Koseki
photograph byNIKKAN SPORTS
posted2012/07/11 10:30
「みちのくのダルビッシュ」の異名を持つ大谷翔平(花巻東)。1m93cmの長身から投げ下ろす最速151キロの直球に加え、フォーク、スライダーなど変化球も多彩。さらに高校通算54本塁打を誇る打撃も超高校級だ。
夏の高校野球の都道府県大会が全国でスタートした。私が個人的に注目する地区は、岩手、群馬、東東京、大阪、福岡の5都府県。その理由は、将来、プロ野球で活躍するような好選手が揃っているからだ。
少しだけ話が過去に遡ることを許してほしい。私はこの5年くらい、日本の野球史にのめり込んでいる。歴史ならどんなことが何年に起こったか調べればいいんだろう、と簡単に考えそうだが、そんなことを調べても面白くも何ともない。今の選手とくらべるとうまい、もしくは、ヘタだったなどと比較しても面白くはない。
それぞれの時代を象徴する選手とは一体誰なのか、その選手はその時代に何をしたのか、どんなプレーをしたのか、あるいはどんな逸話を残したのか、そしてその場所は今どうなっているのか……そういうことを知ることが私の場合、野球史に関わり続けることの原動力になる。
野球の歴史を探ると現代の野球につながる発見がある。
たとえば、1902(明治35)年5月10日に行われた一高対横浜外国人チーム戦に先発した一高の左腕守山恒太郎は、初の国際試合完封勝利という偉業を達成する。
この守山の逸話が凄い。制球難を克服しようと、来る日も来る日も一高グラウンド一塁側の物理教室の煉瓦塀にボールを投げ続け、ついにその一枚を破損する。伝説めいているが、一か所が欠けた煉瓦塀とその横に縦書きで書かれた「守山先輩苦心の蹟」の文字が、『日本野球創世記』(君島一郎著、ベースボール・マガジン社)という本のグラビア写真にはっきりと残されているので本当の話だ。
早稲田大学初代専任監督の飛田穂洲はこの守山と、一高の精神野球をこよなく愛し、「一高から一高式の練習を取り去ったら尊敬に値するものはない」とまで書き、その猛練習を称賛した。
飛田は「一球入魂」の造語でわかるように、早大に精神野球を導入した指導者として知られる。そして早大の精神野球の源流が、守山恒太郎をはじめとする一高野球にあるという意外性。一高はのちに東京大学教養学部となるので、東大と早大の野球の基礎部分はある時代まで、同質だったと考えられる。こういうことを、私は守山恒太郎という明治時代の大投手を通じて知った。
話を現代に戻すと、高校野球の魅力を学校とか地域とかで判断しようとは思わない。
選手個人に焦点を当て、拡大することによって、学校や地域の孕んでいる何かを探ろうとする。常に私は「個人」が最初にあるのである。そういう私のクセというか姿勢を、皆さんにはご理解いただきたいと思って、明治の話を長々とした。