セリエA ダイレクト・レポートBACK NUMBER
バブルに沸く中国超級リーグで、
再び情熱を取り戻した名将リッピ。
text by
弓削高志Takashi Yuge
photograph byAFLO
posted2012/06/14 10:31
中国超級リーグ第11節、広州恒大は青島中能に1-0で勝利。就任初戦を飾ったリッピは観客に向かって喜びを表した。
潤沢な資金を持つ広州恒大だから生かせたリッピの手腕。
実はリッピと広州恒大の契約に先立つこと3年前に、イタリア・サッカー協会と中国協会の間で、指導者交換プログラムなどの協力合意がなされたことがあった。
調印式には、当時の中国駐伊大使や中央政界の要人が訪れ、鳴り物入りでスタートした。だが、広大な国土での実務を無視した中国側政治主導のプロジェクトだったため、イタリア側からコーチを数度派遣したのはいいが現場は混乱し、結局計画自体がうやむやになってしまった。優秀な人材がいても、それを生かせる体制が整っていなければ活躍のしようがない。
巨大デベロッパーを親会社に持つ広州恒大の場合は、スタジアムや練習場はもちろん、リッピが生活する豪華ホテルまで自前で完備する。
“お上”の主導ではなく、自由裁量度の高い民間資本だからこそ設備投資にも積極的なのだ。
相次ぐイタリア人監督の国外流出はセリエAにも問題が。
外国でのイタリア人指揮官ブームには負の背景もある。
指導者の国外流出は、セリエA各クラブの長期的ビジョンの欠如や会長たちの忍耐のなさによって乱発される解任劇の副産物でもあるからだ。
ただし、さらなる次世代の指導者は着実に育ちつつある。
イタリア・サッカー協会のナショナル・トレセンで受講する監督ライセンス講座に今シーズン終了後から通い始めたのは、リッピの薫陶を大いに受けたカンナバーロやガットゥーゾ、ネスタやマテラッツィといったドイツW杯優勝メンバーたちだ。彼らが指導者として、ピッチに戻ってくる日もそう遠くないはずだ。
冷静沈着が売りの名将が見せた“珍しい”行為。
就任からわずか4日、リッピの超級リーグデビュー戦で珍しいことが起きた。
34度の熱気の中、チームが最下位の青島中能相手に辛勝した試合後のことだ。冷静沈着を売りにしてきた名将が試合終了のホイッスルとともにベンチから駆け出すと、四方のスタンドの観客席へ勢いよく手をふって挨拶をし始めたのである。
彼が母国のピッチで愛想をふりまくような真似をしたことは一度もない。