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バブルに沸く中国超級リーグで、
再び情熱を取り戻した名将リッピ。
text by
弓削高志Takashi Yuge
photograph byAFLO
posted2012/06/14 10:31
中国超級リーグ第11節、広州恒大は青島中能に1-0で勝利。就任初戦を飾ったリッピは観客に向かって喜びを表した。
欧州のビッグネーム獲得を続ける中国超級リーグに、“MADE IN ITALY”の大物が加わった。広州恒大の新監督に就任したマルチェロ・リッピのことだ。
3年総額30億円超という破格の好待遇で招かれた名将は、言葉や習慣の違いをものともせず、5月17日の就任早々、精力的に指導を重ねている。
国内の首位固めに成功すると、先月末に行われたアジアCL決勝トーナメント・ラウンド16では、FC東京を撃破して見事ベスト8に進出。中国勢の8強入りは、同大会が32チーム制となって以来初の快挙だ。リッピは、今や“里皮(Lippi)先生”として絶大なる支持を集めている。
2010年に中国有数の不動産企業「恒大地産集団(エバーグランデ・リアル・エステート・グループ)」から買収された広州恒大は、新たな親会社の巨大資本をバックにした豪華補強で中韓の代表クラスや南米のホープを次々に獲得。瞬く間に強豪に成り上がると、昨季の超級リーグで初優勝を遂げた。「超」がつくほどの大富豪オーナー許家印と広州恒大が抱く野望とは、アジア王者の称号とクラブW杯出場に他ならない。
王者となるには王者の将が必要だった。
彼らはCLとワールドカップをダブル制覇したリッピに白羽の矢を立て、大量の人民元と1年がかりのラブコールで口説き落とした。アジア通貨の強さを実感したリッピは、ホーム「広州天河体育中心」を埋める6万の大観衆を見るや興奮を隠さなかった。
「ここには熱狂がある!」
リッピを筆頭に海外で躍進するイタリア人監督たち。
極東アジアや中東に限らず、欧州各国リーグでもイタリア人指導者の活躍が目立つ昨今。
特に今季は、チェルシーをCL優勝へ導いたディマッテオを筆頭に、プレミアリーグを制したマンチーニ(マンチェスター・C)やロシアリーグ連覇を達成したスパレッティの手腕が高く評価された。アンチェロッティ(パリSG)も途中登板ながら最後までリーグアンで優勝を争った。もちろんユべントスでセリエA無敗優勝を成し遂げたコンテも忘れるわけにはいかない。
この同胞監督の躍進ぶりに先達リッピは「私はつねづねイタリアの指導者こそ世界で最も優れていると確信してきた」と豪語した上で「テクニックや戦術面の指導が、イタリア国内のトップリーグだけでなくマイナーなカテゴリーや若年層レベルまで浸透しきっている。戦術指導のバリエーションの豊かさと指導者層の厚さは他国の追随を許さない」と現象の背景を解説し、後輩たちへ賛辞を送った。