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ゴロとフライの比率「GB/FB Ratio」で、
松井秀喜とイチローの好不調を解読!
text by
生島淳Jun Ikushima
photograph byKYODO
posted2010/05/06 10:30
4月26日のインディアンス戦では、メジャーリーグ通算1000本安打となる記録を達成した松井秀喜。指名打者での出場が多いとはいえ、レフトの守備も大過なくこなしている
0.58という数字が示すエンゼルス松井秀喜の好調ぶり。
松井の場合、注目されるのはメジャーに移籍したばかりの2003年の数字だ。なんとその数字は2.30。当時、ニューヨークでは松井のことを”The groundball king”と呼んで揶揄していた。それほどゴロが多かったのだが、これは右投手のツーシームの対応に苦労していたからだと思われる。松井から見て、外角に沈んでいく球種は日本ではあまり見られないもので、このボールをひっかけて凡退する場面が多く見られた。
2年目からはこの球種にもしっかり対応し、本塁打を倍近くに伸ばしたのは職人の技、という感じがする。
昨季はフライの数がゴロの数を超え、本塁打の数が28本と2004年に打った自己記録の31本に迫る勢いを見せた。ベテランの域に入り、打撃技術が向上しているのではないか。
松井の場合、本来の力を発揮しているかどうかを見るのはわりとシンプルで、フライの割合が高い方が好ましい。今季の松井に対して期待が高まるのは、4月下旬の時点でGB/FB Ratioが0.58と、ほぼフライの数がゴロの2倍に達しているからだ。
ボールがいい具合に上がっているのである。松井の場合、これは悪いことではないのだ。この数字を維持できれば、おそらく本塁打30本は超えるチャンスは十分にあると思う。
メジャーでも他に類を見ない数値を示すイチローの存在感。
イチローの数字は対照的である。圧巻なのは、2004年にシーズン262安打というメジャーリーグ記録を作った時の数字で、Ratioはなんと3.55。フライ1本に対して3.5 本以上がゴロだったのである。ちょっとこの数字は他の大リーガーでは見当たらない。基本的にパワー信仰がいまだに強いアメリカでは、考えられない数字だからだ。
いかに野手の間を抜いたヒットが多かったか、そして内野安打も多かったことをうかがわせる数字である。
今季のイチローに関して言えば、フライの数が多い。例年だと、4月はイチローの月間打率が低い場合が多く、数字としては参考にならないが、5月になってこの比率がどう変化していくかに注目したい。