野ボール横丁BACK NUMBER
松井秀喜は日本球界に帰らない……。
命懸けでメジャーに行った男の覚悟。
text by
中村計Kei Nakamura
photograph byKyodo News
posted2012/03/10 08:01
2月下旬の渡米後、ニューヨーク州内の施設でひとり黙々と練習に励む松井秀喜。メジャーでの10年間のプレーで満額収得できる年金制度や、キャンプインから遅れて入団する場合の就労ビザなど……様々な問題と思惑が松井の周囲では飛び交っている状態だ。
“巨人の四番”の絶対性に亀裂を生じさせた松井の移籍。
今思えば、巨人人気の凋落、ひいてはプロ野球人気の凋落は、松井の海外移籍がターニングポイントだった。
それまでの日本球界は、たとえ野茂英雄がメジャーで大ブレイクしようと、まだ、巨人のエース、巨人の四番が、価値観の頂点にあった。
だが、松井の行動が、それを否定した。松井が意図するしないにかかわらず、巨人の四番以上に魅力のある世界があるということを気づかせるきっかけになった。
もちろん、松井が悪いわけではないが、松井は、自分のしたことの大きさは自覚しているはずだ。それを口にするほど自惚れてはいないが、それに気づかないほど鈍感な男ではない。
その重さがわかる以上、簡単に戻ってはこれまい。
岩村、松井稼はなぜ日本球界に復帰したのか?
昨季、楽天に移籍した岩村明憲も、メジャーで苦労している頃、「自分でメジャーを選んだ責任は感じている」と暗に簡単には日本に戻るつもりはないという意味のことを話していたが、最終的には「自分を必要としてくれることに飢えていた」と帰国を決断した。契約時点で岩村はまだ31歳と若かっただけに、その気持ちは理解できた。
しかし37歳で、9年間メジャーでプレーし、ワールドシリーズでMVPまで獲った松井にそこまでの飢餓感はないだろう。
岩村と同じく昨年、楽天で日本球界復帰を果たした松井稼頭央の場合はどうか。松井稼頭央は以前から「最後は日本球界に戻りたいと思っていた」と語っている。
「簡単に帰るつもりはなかったけど、ある程度、動けるときに帰ってきたかった。日本で育ててもらったという恩義もありましたし。そのタイミングがちょうど合ったということだと思います」
松井秀喜は、いずれのタイプにも当てはまらない。