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ヤンキースにはバントシフトが無い!?
黒田博樹が語る、奇妙な守備意識。
text by
生島淳Jun Ikushima
photograph byThomas Anderson/AFLO
posted2012/03/05 10:30
フロリダ州タンパで行われているニューヨーク・ヤンキースのスプリング・トレーニングで汗を流す黒田博樹。ジラルディ監督は「CC・サバシアと黒田が決定で、残り3枠を4人で争っている」と黒田の開幕ローテ確定を明言
バント処理の根底に流れる強力打線への絶対的な信頼。
「ヤンキースとしては、相手にビッグイニング、大量得点を許さなければいいので、確実にアウトをひとつ取ればいい、というのが投手コーチの話でした」
その根底にある理由がふるっている。
「僅差の試合であれば、ヤンキースの打線が終盤に逆転してくれる。だから、アウトをひとつひとつ、確実に取っていこう」
なるほど。
極端なバントシフトを取らずバント処理をする発想の根底にあったのは、ジーター、ロドリゲス、カノー、テシェイラといったオールスター級の打線に対する揺るぎなき信頼だったのだ。
たしかに昨季のヤンキースの成績を見てみると、ブルペンの投手陣に勝ち星が付いているケースが多い。それは終盤に入ってから逆転する試合が多かったということを示しており、ヤンキースの守備発想が理にかなっていることを示している。
最善の守備隊形はチームの「生態系」に左右される。
興味深いのは、チームの「生態系」によって試合の細かいプレーが変わってくるということだ。
このヤンキースの打線に対する信頼は、守備隊形にともなって配球にも影響を与える。
日本では「簡単にバントをさせるな」という考えから、投手は際どいところ、あるいは高めにボール気味のストレートを投げてフライに取ることを、まず要求される。
しかしかえってカウントを悪くしてしまい、ピンチを広げる危険性があることを忘れてはいけない。
もし、四球やバント処理のミスで無死満塁になってしまったら、相手は大量得点のチャンスを迎えることになる。
対するヤンキースの場合は「確実にアウトひとつ」という発想だから、ストライクのコースに投げて、バントをさせるという配球につながっていく。当然、カウントを悪くしてしまう危険性は減る。
チームがどんな強みを持っているかによって、守備隊形、配球にまで影響を及ぼすという興味深い事例だった。