オフサイド・トリップBACK NUMBER
袋小路に追い詰められた名将の矜持。
ベンゲルとアーセナルは復活するか?
text by
田邊雅之Masayuki Tanabe
photograph byGetty Images
posted2011/10/01 08:02
「(辞任するのではないかとの声に対し)噂などには惑わされないつもりだ。これからチームを再建する」と宣言したベンゲル。クラブのチーフエグゼクティブであるイヴァン・ガジディスは「(監督解任は)考えていません。突然彼が無能な監督になるということはないのですから」とベンゲルの更迭が無いことをコメントしている
「まさに拷問室」
イギリスのタブロイド(大衆紙)はやたらとセンセーショナルな見出しをつけることでも知られる。アーセナルがカーリングカップの3回戦(9月20日)に勝利した翌日などは、特にこの傾向が目についた。日本では宮市亮が公式戦デビューを飾った記念すべき試合として報じられたが、現地ではお祭りムードなど微塵もない。
たしかに4部のチームに先制され、そこから逆転するという展開は、今のベンゲルにとって生きた心地がしなかっただろう。セスクやナスリの離脱、マンU戦における8-2での敗北、そしてスタートダッシュの失敗と、アーセナルはいまだ混迷の最中にある。
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一応、移籍市場が閉じる直前にベナユンやメルテザッカー、アルテタ等を獲得してはみたものの、これも手放しで喜べるとは言いがたい。そもそも場当たり的な補強の仕方をすること自体、あまりにも「ベンゲルらしさ」に欠けていた。
しかし今問題になっているのは、実はこの「ベンゲルらしさ」なのである。
8月29日早朝、アーセナルがマンU戦で歴史的大敗を喫した直後、筆者は次のようにツィートした。
「今季のアーセナルは昨季のリバプール並に坂を転げ落ちる危険性もある。ただしリバプールと決定的に違うのは、チーム作りのコンセプトは変わっていない点。それだけにアーセナルの方がはるかに状況は深刻だ」
極論すれば、現在のアーセナルが抱える最大の問題は、戦力の低下でも成績の低迷でもない。一番深刻なのはベンゲルの方法論が変わっていないこと――美徳であり理想的だとされていた堅実な運営方針が保たれていたにもかかわらず、チームが行き詰ってしまった点に他ならない。
ベンゲルのぶれない方法論はなぜ行き詰まったのか?
では現地の識者は、アーセナルの現状をどう分析しているのか。
9月2日、サイモン・クーパーはフィナンシャル・タイムズに定期コラムを寄稿。アーセナルがトラブルを抱えた要因として、
1:原石を安く買って高く売るという方法論がライバルに模倣され、ベンゲルのアドバンテージがなくなったこと。
2:新スタジアムの建設が重荷になり、選手補強に費やせる予算が制限されたこと。
3:ベンゲルが自分の方法論に酔ってしまい、組織が硬直化した。
ことなどを挙げている。
他方、かつてアーセナルの監督を務めた解説者のジョージ・グラハムは、次のように述べている。
「数年前までのアーセナルはテクニック、パワー、フィジカルの強さ、メンタルの強さのすべてを備えていたが、近年は小柄ですばしっこく、テクニックのレベルも高い選手を揃えてさかんにボールを回すという、バルサのコピーのようなチームになってしまった。
イングランドのサッカーでは、パワーやフィジカルの要素も重要になる。しかも今のチームはあまりにも若い」