野球善哉BACK NUMBER
高校球界に君臨する強打の2校。
日大三vs.智弁和歌山、勝敗の内幕。
text by
氏原英明Hideaki Ujihara
photograph byHideki Sugiyama
posted2011/08/17 11:55
8回裏、1死から打席に立った6番・菅沼賢一がスライダーを2球見送ってからのフルスイング! いつも笑顔でのプレーで人気の菅沼が、“勝負強い日大三”のイメージを印象づけるホームランを放った
日大三の緻密な戦い方は攻守ともに浸透していた。
1回裏の先頭、ファーストストライクで快音を響かせた清水の打球音や主砲・横尾の豪快なスイングでありながらも確率の高いバッティングは見事だったが、見落としてはいけないのは彼らの得点力である。
先制点は2死二塁からのシングルヒットで生還したし、2点目も一塁から本塁へ還って来た。2回裏の2得点も、1死二塁と2死二塁からのシングルヒットで、ホームに到達している。打つだけではなく、走者を二塁においてヒット1本で必ず生還できるだけの走塁をきっちりこなしていたのである。
また、攻撃面での緻密な攻めは守備面でも生きる。
6回表、こんなシーンがあった。智弁和歌山は1死から4番・道端俊輔が左前安打で出塁した。5番の宮川祐輝が二飛で倒れた後、6番・平岡志大が右翼線へヒットを放つ。この時、日大三の右翼手・高山はセンター寄りにポジションを取っていた。一塁とはいえ、2死からの長打なら、道端はどうあっても本塁へ生還しようとするはず。事実、1回裏の日大三はそうして1点を取っている。しかし、右翼手・高山→二塁手・菅沼→捕手・鈴木貴弘へと渡った中継プレーは、道端をギリギリ三塁へ留めたのだ。
高山は言う。
「右中間寄りにポジションを取っていたのは、平岡くんの打球がセンター寄りに多かったから。第2打席ではそこに飛んできて抑えられたので、その流れであの打席もセンター寄りを守っていた。ライト線を破られましたけど、クッションボールさえ間違わなければ、先の塁を取られることはないという確信がありました。普通どおりの良いプレーができたと思います」
道端俊輔の活躍で、智弁和歌山もついに反撃開始!
攻撃面で先の塁を狙う走塁があるからこそ守備面では先の塁に進ませない。攻守一体のチーム力が日大三にはあった。それが強打だけではない、彼らの強さの秘密である。
それでも、智弁和歌山が中盤以降に盛り返し、あわや逆転劇もあり得る展開を作ったのは、捕手・道端の活躍に依るところが大きい。3回からの日大三の攻撃を止め、5回裏には1死二、三塁のピンチでスクイズを外し、追加点を防いだ。
道端は言う。
「序盤からストレート勝負でいっていたんですけど、日大三には通用しなかった。5点以内に抑えれば勝負ができる、と監督からは言われていたので、3回からは変化球を多く使って、コーナーを使うようにしました。そうしたら、抑えられるようになりました。5回のスクイズを外した場面は、日大三は初球にスクイズをやってくるチームっていうのが頭にあったので、外してみようかなとやってみたら上手くいきました。僕は5回目の甲子園出場なので、リード面でその経験を見せられた」
かくして、智弁和歌山は反撃にかかった。
3回表に嶌直広の中前適時打で1点を返すと、5回表にも、併殺崩れの失策から1点を奪う。7回表に中村恒星の適時三塁打などで2点を返し、ついに1点差に迫ったのだ。
しかし、序盤から両者にあった差は、勝負所の8回の攻防でさらにその明暗をクッキリと浮かび上がらせた。