野球善哉BACK NUMBER
高校球界に君臨する強打の2校。
日大三vs.智弁和歌山、勝敗の内幕。
text by
氏原英明Hideaki Ujihara
photograph byHideki Sugiyama
posted2011/08/17 11:55
8回裏、1死から打席に立った6番・菅沼賢一がスライダーを2球見送ってからのフルスイング! いつも笑顔でのプレーで人気の菅沼が、“勝負強い日大三”のイメージを印象づけるホームランを放った
試合前からゾクゾクしていた。
3回戦最後のカードが智弁和歌山vs.日大三だったからだ。
今大会の優勝候補同士というだけでなく、20世紀最後の覇者・智弁和歌山と21世紀最初の覇者・日大三がぶつかるのである。
2000年夏、圧倒的な打撃力で大会通算打率・本塁打などの当時の大会記録を作った智弁和歌山に対し、最高打率を翌年に塗り替えたのが日大三だった。
あれから10年。最高打率は'04年に駒大苫小牧によって塗り替えられたが、10年たった今もなお、高校球界に君臨し続ける両校が甲子園で初めて対戦することになったのだ。
真の強打はどちらなのか――。
このカードにはそんな楽しみが詰まっていたのである。
「抽選が終わった時から、“三高”とやるまでは負けられん! って思ってました。三高が打つのは分かっとんのよ。それに対して、ウチの打線がいかに打ち返せるか。三高のエース吉永(健太朗)君は予選からずっと投げてきている。だいぶ疲れとんちゃうかな、と。こっちは失うものはなんもないから、全力で行くだけ」と話してくれた智弁和歌山・高嶋仁監督。
日大三・小倉全由監督は「ワクワクしていますよ。僕が若い時は池田の蔦(文也)監督、PLの中村(順司)さんを監督として目標にしてきたけど、今では智弁和歌山の高嶋さん。その高嶋さんと対戦ができる。しかも、この舞台でできるっていうのはワクワクしますよ。選手より僕の方が楽しみにしているんじゃないかな」と試合前に語っていた。
そして、勝ったのは日大三。
2回までに5点を奪い、中盤以降に反撃を受けるも8回にダメ押し。強いチームの戦い方のお手本のような試合運びだった。
とはいえ、日大三が強かったのは、ただ打線が強力だっただけではない。同じ強打のチームでも、智弁和歌山とはその打撃の中身が違っていたのだ。
二塁に走者を置いた日大三は、シングルヒットでも必ず得点した。
例えば、5得点を奪った1、2回の日大三の攻撃。
先頭の1番・清水弘毅が右前安打で出塁。犠打、中飛と続いて4番・横尾俊建が二遊間を破る中前安打を放ち、二走の清水が生還した。さらに、5番・高山俊が右翼線三塁打を放つと、一走・横尾が長駆ホームイン。6番・菅沼賢一は三塁ゴロだったが智弁和歌山の守備陣が乱れ、この回一気に3点を先制した。
2回裏は先頭の9番・谷口雄大が中前安打で出塁すると、犠打で二進し、2番・金子凌也が中前安打。智弁和歌山の中堅手・沼倉健太がそのボールをはじく間に、谷口が生還。そのあと、2死二塁から4番・横尾が2打席連続タイムリーを放ち、さらに1点を加えた。