カンポをめぐる狂想曲BACK NUMBER
From:新木場「雨好きの晴れ男。」
text by
杉山茂樹Shigeki Sugiyama
photograph byShigeki Sugiyama
posted2009/01/20 00:00
年初めに出かけた某編集部主催のゴルフコンペ。晴れ男はここでも健在だった。
コース途中で突然のヒザ痛に襲われてスコアは散々だったが、その帰り道、
湾岸に広がる夕焼けと遠くに見える富士山の絶景に、僕はひとり悦に入っていた。
滅多なことではへこまない、いつもニコニコ明るい僕も、今回のラウンドにはさすがに落胆させられた。某編集部主催のゴルフコンペでの話だ。
出足は快調だった。何といっても寒くないのだ。この時期の早朝は、半端ではない冷え込みに襲われる。前日の天気予報も0℃に限りなく近いことを告げていたと記憶する。
ところが、新木場にあるゴルフ場に万全な冬支度で訪れてみれば、肩すかしを食うほどのポカポカ陽気で、リンクスコースにつきものの海風もほとんどない。雲ひとつない真っ青な上空を眺めながら思い出した。僕の異名が、スギヤマ晴男であることを。
何を隠そう、僕は典型的な晴れ男だ。能天気そうな見てくれに相応しい異名を持つ。観光地の雨雲は、僕の到来とともにかなりの確率で消散する。
いつかのゴルフでもそうだった。雨はゴルフ場に到着する直前まで激しく降っていたが、スタートホールに立つとピタリと止んだ。で、ラウンドが終わり、ゴルフ場を後にすると、クルマでものの10分も走らぬうちに降り始め、東京に戻れば豪雨だったという珍現象も体験している。
つい3日ほど前に行なった屋外の撮影でも、午前中の荒天は、お昼頃には見事に回復。気がつけば雲ひとつない空が広がっていた。
僕が晴れ男である理由は、日頃の「行ない」を、お天道様がキチンと見ていてくれるからに違いないと勝手にうぬぼれているが、今回はそれが仇になった可能性がある。
最初のハーフはプレーのほうもまずまずだった。練習をまったくしていないわりには、ボールは真っ直ぐに飛んでくれた。思わずフェアウェイを走りたい衝動に駆られた。
幸い、このゴルフ場は「歩き」だ。乗用カートでのラウンドが圧倒的多数を占める中、18ホール、正味約10kmを自力で歩く、健康的なコースなのだ。健康志向が高まっている僕には、歓迎すべきコースと言えた。
ジョギングを始めたり、マイシューズを作ったりしたことは、このコラムで報告済み。一方で、その結果、ヒザ痛に襲われたことも書き記しているが、そのヒザ痛は、ここに来てすっかり収まっている様子だった。フェアウェイを駆けてみたい衝動は増すばかりだった。そんな時にナイスショットが飛び出した。5番アイアンで放ったショットは、見事にグリーンを捉えた。
右ヒザがグキッといったのはその直後。ゴルフバッグを積んだカートのある場所まで、上機嫌でフェアウェイを小走りに横切った瞬間だった。初めは違和感程度に過ぎなかったが、昼飯をとり、午後のプレーに入ると、歩くのもままならない最悪の状態に陥った。ショットの際の踏ん張りも利かない。それを機に、スコアはみるみる崩れるわ、ヒザ痛は増すわで、途中棄権してクラブハウスまで引き返したくなったほどだ。
結果は推して知るべし。参加者16人中13位に終わった。持ちハンデを10打も越える最悪の成績に、意気消沈するしかなかった。
もっとも、クラブハウスから新木場の駅に向かうクルマの車内で、スギヤマ晴男は見事に復活した。
東京湾岸に広がる夕焼けの風景に感激させられたからだ。オレンジ色に染まる地平線の彼方には、富士山まで想像以上の大きさでくっきり浮かび上がって見える。羽田空港に舞い降りる飛行機の姿も確認できた。滅多にお目にかかることのできない絶景に、車内の男3人は感嘆の声を上げていた。僕はひとり悦に入っていた。晴れ男の存在なしに、この感激は味わえないのだから。
面白いのは、にもかかわらず、僕が雨が好きだということだ。雨に濡れることも実はそう苦にならない。雨が止んだのに傘を持ち歩いているほうが、はるかに苦痛だ。
一日晴れたら、翌日は曇り。その翌日は雨。これが僕の理想。カンカン照りが3日続くと、バランスは狂い始める。雨が降ることを念じたくなる。
ゴルフの日は、晴れてもらわなければ困るけれど、家で原稿書きをする日は、雨でオッケー。雨音の調べを聞きながら机に向かったほうが、むしろ仕事ははかどる。
すなわち、晴れ男の条件は雨好きであることだ。晴れを必要以上に欲すると、肝心な時に雨に降られる。僕はそう確信してやまない。