レアル・マドリーの真実BACK NUMBER
会長候補出そろう。エリクソン就任とスペイン人化を支持したい。
text by
木村浩嗣Hirotsugu Kimura
photograph byPanoramiC/AFLO
posted2006/06/12 00:00
代表をドイツに送り出したのが空港ロビーにたまたまいた観光客だけという冷え込みぶりも、さすがに開幕すると熱を帯びてきた。それでも、まあスペイン人が本当に熱狂するのはグループリーグを突破できた時だろう。くじ運に恵まれながらも、人々は半信半疑なのだ。そんな中、ワールドカップどころじゃない人たちがいる。レアル・マドリーの会長候補たちだ。
先週6日に公示され、予想を上回る5人の候補者が名乗りをあげた。立候補締切日15日から7月2日の投票までが正式な選挙期間だが、すでに舌戦が始まっている。スペイン代表の初戦は14日(ウクライナ戦)と遅いので、サッカーファンにとってはちょうどいい暇つぶしになっている。フロレンティーノ前々会長に追い落とされたフェルナンド・マルティン前会長は立候補しなかった。前回のレポートで「ビジネス界を捨てるほどサッカーへの愛着があるかどうか」と疑問符をつけておいたのが、その通りになった。
候補者からひっぱりだこのデル・ボスケ
5人の顔ぶれを見てみよう(以下、当選後のプロジェクトはあくまで公約で、まっかな嘘とは言わないが、それに限りなく近いとてつもない大風呂敷も含まれているので注意)。まずは、「傲慢だと思われるだろうが今選挙に出れば、また私が勝つ」と外野から混ぜっ返し続けるフロレンティーノ氏に敬意を表して、親フロレンティーノ派と言われる候補から。
(1)ビジャル・ミルとカルロス・サインツ (親フロレンティーノ派)
スローガン:“レアル・マドリー、何よりも大切なもの”
スポーツディレクター:未定、監督:ラウドルップ⇒ベンゲル⇔カペッロ、選手:未定。メッシを獲ると言ったとか言わないとかで大騒ぎするも、「あれは嘘。メッシとも誰ともコンタクトはない」(ミル)と否定して一件落着。
コメント:ミルは1995年に副会長。サインツは国民的人気のラリーレーサー。前回のレポートで「独立派」と私は分類したが、現理事会の支持を得たので「親派」と変えた。
(2)ロレンソ・サンツ (反フロレンティーノ派)
スローガン:“今こそサッカーについて話そう”
スポーツディレクター:未定、監督:デル・ボスケ、選手:未定。
コメント:1995年〜2000年まで会長で「反派」の旗手的存在。「今、補強について語るのは経験と知識の無い証拠だ」、「話題になっているデル・ボスケもカペッロも私が連れてきた」、「会員は継続かそれともタイトルかを選ばねばならない」と経験者らしく余裕がある。
(3)ラモン・カルデロン (反フロレンティーノ派)
スローガン:“感じるものを獲ってみないか”
スポーツディレクター:ミヤトビッチ、監督:シュスター⇒カペッロ⇒?、選手:カカ カカの父親は「そんな人は知らない」と一笑にふすも、「1年前は誰もシェフチェンコがチェルシーへ行くとは思わなかったろう」(ミヤトビッチ)。「センターバック1人、ボランチ2人、フォワード1人が必要だ」(同)。「ロベルト・カルロスは友人でチャンピオンだから」(カルデロン)とロベルト・カルロスの残留を保証。
コメント:ミヤトビッチ人気で最もマスコミへの露出が多いが、放言(失礼!)も目立つ。カペッロには断られたという報道も。
(4)アルトゥーロ・バルダサノ (反フロレンティーノ派)
スローガン:“再び、感動を”
スポーツディレクター:デル・ボスケ、監督:エリクソン、「デル・ボスケが推薦してくれた」(バルダサノ)、選手:レジェス、ホアキン。「ホアキン本人のOKはもらっている」(同)。
コメント:3回目の出馬。「私は唯一、現状の危機に関係のない候補」という言葉も裏を返せば、落選続きだったから。チームのスペイン人化と女子チーム創設を打ち出す。前回選挙では2%に満たない得票率だったが、「我われは大差で勝利する」と断言。
(5)ホアン・パラシオス (反フロレンティーノ派)
スローガン:なし スポーツディレクター:カマーチョ 監督:デル・ボスケ
コメント:ロレンソ・サンツ会長時代フロント経験あり。最もラディカルな反フロレンティーノ派とされる。フロレンティーノと対立した人物で固め、彼が選ばれれば銀河系軍団の顔ぶれは大幅に変わるだろう。
以上。
見ればわかるが、デル・ボスケの名前があっちこっちに出てくる。本人は「候補者とは距離を置いて、自由な立場にいたい」と主張しているが、監督に抜擢したロレンソ・サンツと最も関係が深いと思われる。驚くのは好々爺の印象があった彼の意外に政治的な顔だ。「ビジャル・ミルは今の状況を生んだ継続派。票が割れることは彼らを有利にする」など、いろんなメディアで積極的にフロレンティーノ、あるいはミルを攻撃している。最後のリーグ優勝後にクラブを追い出されたことによほど恨みを抱いているのだろう。これまでフロレンティーノ政権に嫌悪感を表明しながらも口はつぐんで来たが、今は容赦がない。彼の舌鋒の鋭さに選挙戦の火ぶたが切られたことを実感させられる。
候補同士での批判合戦もすでに始まっている。これも採録しておこう(⇒攻撃の方向)。
●バルダサノ⇒ミヤトビッチ
「ミヤトビッチはエトーをバルセロナに連れて行った張本人」。
●サインツ⇒ミヤトビッチ
「スポーツディレクターが代理人というのは最もやってはいけないこと」。
●ミヤトビッチ⇒バルダサノ、サインツ
「代理人のどこが悪い。契約の知識は役に立つ。ディレクターになればライセンスは返上する」。「フロレンティーノはエトーに何の関心も示さなかった。彼を移籍させたのは誰なのか?」。
●サインツ⇒カルデロン
「カルデロンは候補者の中で唯一、現理事会に所属していた。責任を忘れてはいけない」。
●サインツ⇒カマーチョ
「2度レアル・マドリーに来て、2度とも問題を解決できなかった人物」。
ミルのカペッロも悪くないが、バルダサノに一票
さて、私が会員なら5人のうち誰を選ぶか?プロジェクトや発言から考えてみた。
消去法で行こう。まず落とすのはラモン・カルデロン。やはりエージェントのミヤトビッチがスポーツディレクターというのはまずい。いくらライセンスを返上しても交渉人時代の人間関係や利害関係が補強策に反映されるのでは、という懸念がある。友人だからロベルト・カルロスを残す、という判断も情実の嫌な臭いがぷんぷんだ。次に落選するのが、ホアン・パラシオス。サインツの言葉ではないが、カマーチョは2度レアル・マドリーに来て、2度とも途中で投げ出した。今度それをやればクラブの組織はガタガタ。一本気はいいが短気は困る。3人目がロレンソ・サンツ。彼の場合はスポーツプロジェクトがはっきり決まっておらず、監督がデル・ボスケというのも不安だ。デル・ボスケは確かにリーグ2度、チャンピオンズリーグ2度の優勝を果たしているが、レアル・マドリー以外では結果を残していない。難局には、選手を上手にまとめるタイプの彼よりも、何もかもぶち壊すブルドーザータイプの方がいいと思う。デル・ボスケ=スポーツディレクターなら問題ないのだが。
となると残るのが、バルダサノとミル。どっちを選ぶか?
エリクソンはワールドカップ後の去就が決まっておらず、バルダサノと合意ができていると考えるのが自然だろう。チームをスペイン人化したいという方針にも共鳴できる。ミルの方は、ベンゲルもしくはカペッロが監督候補というのがいい。ベンゲルならアーセナル方式でスポーツディレクターと兼任させるようだ。ただ、義理堅そうな彼がアーセナルを途中で投げ出すような真似をするだろうか。スキャンダルに揺れるユベントスなら、カペッロが出て行く可能性は大いにある。が、そうなるとザンブロッタとかエメルソンとかが一緒に移籍し、チームがユベントス色に染まる恐れも。これは完全に好みの問題だが、やはりレアル・マドリーはスペイン人が主役のチームであって欲しい。
という訳で私ならバルダサノに一票を投じる。あなたなら誰を選ぶか?ワールドカップの準決勝が行われている時には、結果が出ている。たぶんその頃には代表は負けているから、話題は会長選一色のはずだ。
今季の「レアル・マドリーの真実」はこれが最終回。また機会があれば、新会長とプロジェクトを紹介したいと思う。