MLB Column from USABACK NUMBER

「あと一球」 23年を経た奇縁。
レッドソックスvs.エンゼルス。 

text by

李啓充

李啓充Kaechoong Lee

PROFILE

photograph byGetty Images

posted2009/10/16 11:30

「あと一球」 23年を経た奇縁。レッドソックスvs.エンゼルス。<Number Web> photograph by Getty Images

「悪趣味」な始球式の主役デーブ・ヘンダーソン。ポストシーズンで勝負強い打撃みせ、多くのファンを魅了。マリナーズ、レッドソックスなど計5球団を渡り歩き、94年に現役引退。

 レッドソックスがア・リーグ地区決定シリーズでエンゼルスに対し3連敗、あえなく敗退した。

 しかし、第3戦は2点リードで迎えた9回表、二死無走者2ストライク・ノーボールと打者を追い込み、「あと一球」で勝てていたはずの試合だった。

 しかも、投手は抑えのエース、ジョナサン・パペルボン。そこまでポストシーズン27イニング連続無失点の記録を継続していただけに、「あと一球」の状況から3点取られて負けたショックは大きかった。

 一方、エンゼルスにとって、レッドソックスは、昨季の地区決定シリーズまでポストシーズンで相まみえること4回、4回とも苦汁をなめさせられてきた相手だった。その苦手に対し、「あと一球」の状況から「神がかり的」ともいえる逆転劇を演じたのだから、勝利の美酒の味は格別だったに違いない。

1986年にはエンゼルスが悪夢のような逆転負けを喫す。

 ところで、この2チーム、ポストシーズンの大切な試合で「あと一球」の状況から奇跡的逆転劇を演じたのは、今回が初めてではない。

 1986年のア・リーグ選手権シリーズ。3勝1敗とリードして迎えた第5戦、エンゼルスは5対2と3点差をつけて9回表の守りに着いた。しかし、好投していたエース投手がつかまって1点差に追いつかれたエンゼルスは、二死一塁となった時点で、抑えのエース、ドニー・ムーアを投入、逃げ切りを図った。

 ムーアは、デーブ・ヘンダーソンを2ストライク1ボールと追い込み、エンゼルスは悲願のワールドシリーズ進出まで「あと一球」と迫った。しかし、ファウルで粘ったヘンダーソンに7球目を左翼席に運ばれ、ムーアはセーブに失敗した。

 その裏、同点に追いつき、延長戦に持ち込んだものの、続投したムーアは、11回表ヘンダーソンの犠牲フライで再度リードを許し、敗戦投手となってしまった。

「あと一球」で敗れたムーアは最後に拳銃自殺を。

 悪夢のような敗戦を喫したエンゼルスはショックから立ち直ることができず、続く第6・7戦もいいところなく敗戦、ワールドシリーズ出場の夢を絶たれた。

 一方、「あと一球」の場面でセーブに失敗したムーアは、その後ファンから「戦犯」扱いを受けるようになった。しかも、腰椎の剥離骨折のために不調が続き、ファンのブーイングを浴び続けた末、88年のシーズン途中、エンゼルスに解雇された。

 首を切られた後、生活がすさみ、経済的にも苦しむようになったムーアは、89年7月、別居中の妻との口論の末、拳銃自殺してしまった。「あと一球」の場面でセーブに失敗した後運命が暗転、悲劇的な結果に追い込まれたのだった。

【次ページ】 あのヘンダーソンを第3戦の始球式に招いたレッドソックス。

1 2 NEXT
#ニック・エイデンハート
#ボストン・レッドソックス
#ロサンゼルス・エンゼルス

MLBの前後の記事

ページトップ