MLB Column from USABACK NUMBER

「あと一球」 23年を経た奇縁。
レッドソックスvs.エンゼルス。 

text by

李啓充

李啓充Kaechoong Lee

PROFILE

photograph byGetty Images

posted2009/10/16 11:30

「あと一球」 23年を経た奇縁。レッドソックスvs.エンゼルス。<Number Web> photograph by Getty Images

「悪趣味」な始球式の主役デーブ・ヘンダーソン。ポストシーズンで勝負強い打撃みせ、多くのファンを魅了。マリナーズ、レッドソックスなど計5球団を渡り歩き、94年に現役引退。

あのヘンダーソンを第3戦の始球式に招いたレッドソックス。

 さて、今回の地区決定シリーズ。0勝2敗と王手をかけられてフェンウェイ・パークに戻ってきたレッドソックスは、第3戦試合前の始球式に、23年前、「あと一球」の場面で逆転打を放ったヘンダーソンを起用。エンゼルスの面々に「忌まわしい過去」を思い出させる「悪趣味」ともいえる作戦を採用した。

 しかし、悪趣味なセレモニーを演出したことが祟ったのか、レッドソックスは、今度は、自分達が「あと一球」の場面から悪夢のような逆転負けを喫する羽目に陥ったのだった。

 一方、神がかり的な逆転劇を演じたエンゼルスだが、逆転の原動力となったのは、開幕直後に起こった「悲劇」にあったように思えてならない。

期待の新人を突然の事故で亡くしたエンゼルスの弔い戦。

 4月8日、今季初先発で6回を無失点に抑える好投を披露した新人投手ニック・エイデンハート(22歳)が、その直後、交通事故に巻き込まれて急死したのである。しかも、原因は、相手の車の酒酔い運転。チームメートにとっても、ファンにとっても、「仕方なかった」と割り切ることなど到底できない、不条理かつ悲劇的な死だった(彼の死を巡る状況については別の場所に書いたので、興味のある方は参照されたい)。

 チームメート達にとって、できることはただ一つ、「エイデンハートのために勝つ」こと以外になかった。ユニフォームにエイデンハートの背番号34を喪章として縫い付けただけでなく、毎試合、ダグアウトにそのユニフォームを吊し、「弔い戦」としてのシーズンをチーム一丸となって戦ったのである。

 今季エンゼルスは97勝65敗でア・リーグ西地区を制したが、なんと47勝が逆転勝ちと、シーズンそのものが「神がかり的」な展開となっていた。プレーオフでの「あと一球」からの逆転劇も、その延長線上で起こったことだったのである。

 かくして、レッドソックスとエンゼルスは、23年の間をはさんで「あと一球」からの神がかり的逆転劇を応酬し合う巡り合わせとなったのだが、その背景には、二人の投手の悲劇的な死が絡むという奇縁があったのである。

 一度目は逆転劇が一人の投手に悲劇的な死をもたらす残念な結果となったが、反対に、二度目は、一人の投手の悲劇的な死がチームメート達による奇跡的逆転劇をもたらしたのだった。

BACK 1 2
#ニック・エイデンハート
#ボストン・レッドソックス
#ロサンゼルス・エンゼルス

MLBの前後の記事

ページトップ