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4年ぶりの祭典をどう楽しむか。北島康介
text by
松原孝臣Takaomi Matsubara
photograph byTakuya Sugiyama
posted2008/08/12 00:00
昨日から秋を迎えたかのような気候が続いている。どんよりと曇った空、ときおり雨が降っている。涼しい風が吹き、夜は半袖では肌寒いくらいだ。
だが、国家遊泳センターは熱かった。
アテネ五輪に続く連覇。しかも誰も到達したことのなかった58秒台、むろん世界新記録。
北島康介は、平泳ぎ100mを泳ぎ終え、電光掲示板で優勝を知ると、4年前を思い出さすかのように雄叫びをあげた。
準決勝まではダーレオーエン(ノルウェー)が素晴らしい泳ぎをみせていた。決勝に2番手で進出した北島の優勝を不安視する声も起きていた。
それを吹き飛ばす快泳だった。
朝、予兆はあった。試合が始まる前の練習のとき、コーチの平井伯昌氏がスタンドの知人にこう叫んだ。
「やっとスイッチが入ったよ」
平井氏は北島の泳ぎを「スイッチが入っている」「まだ入っていない」と表現することがある。スイッチとは、おそらくはメンタルのことだ。北島はスイッチが入った状態になると、素晴らしい泳ぎをみせる。それがこの朝入ったと平井氏は感じたのだ。その時点で勝利は約束されていたのかもしれない。
それにしても、北島のメンタルの強さにはただ脱帽するほかない。アテネやこの日のレース、故障明けで不安視されたときなど、ここ一番のときは、必ず結果を出してきた。6日の会見でも、「いやあ、オリンピックは、レースを迎えるのは本当に楽しみです」と語っていたが、緊張をかわすためでも不安を忘れたいためでもなく、正直に、「楽しみ」だったのだ。
4年に一度の舞台を楽しみに待つことができて、結果を必ず出せる強さはどのようにして作られるのか。いや、きっと努力して身につけたのではない。北島の最大の才能であり、並外れたアスリートたらしめているのだ。
14日には200mの決勝が待っているが、2冠に輝くのはほぼ間違いないだろう。
明日12日も競泳ではメダルの可能性がある。女子背泳ぎ100mの決勝に、中村礼子が3番手、伊藤華英が7番手で進出している。
メダル圏内の中村は、以前は競泳界でありえないほどの練習量を積んで日本代表にまで成長してきた選手。北島と同じ平井氏の指導を受けるが、平井氏も本人も認める頑固者。言いかえれば、納得すればとことん練習に取り組む選手だということだ。
努力の人、中村礼子がアテネの200m銅メダルに続くメダル獲得なるか12日の競泳の注目である。
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