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From:東京「一石二鳥のサッカー観戦」 

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杉山茂樹

杉山茂樹Shigeki Sugiyama

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photograph byShigeki Sugiyama

posted2005/05/18 00:00

From:東京「一石二鳥のサッカー観戦」<Number Web> photograph by Shigeki Sugiyama

スカパーで見た荻原次晴がザスパ草津を応援していた。

草津といえば日本一の温泉。

でもスタジアムと温泉地が離れているんだよな~。

 日曜日の深夜というか月曜日の未明、なにげなく仕事部屋のデスクトップを眺めていたら「大久保先発出場!」なる見出しが、画面上に現れた。ところが、すかさずテレビのスイッチを入れWOWOWに選局しても、画面には映画が現れるのみだった。もーまったく!

 とはいえ、WOWOWには同情したくなる面もある。大久保はいつ出場するのか、サッパリ分からない選手だ。出場試合全てを生中継しようとすれば、計り知れない無駄を強いられる。前回のコラムで「欧州組」を生観戦することは、朱鷺や雷鳥といった特別天然記念物を追い求めるのと同じくらい難しいと書いたが、テレビの場合は取材態勢がもっと大がかりなので、よりリスクを抱えた作業になる。大袈裟に言えば「ナショナルジオグラフィック」の番組を、生で流すのと変わらない。

 テレビをそのまま切るのも何なので、リモコンを動かしていると、画面には荻原次晴元選手が現れた。スカパー!110CHの番組宣伝風の番組に、彼はキャスター役として登場していたのだ。そこでリモコンを止めた理由は、その好青年度ぶりにひかれたからというより、着ている衣装に目が止まったからといった方が良い。そのザスパ草津のユニフォーム姿には、この上ないインパクトがあった。そして、彼はしきりにザスパの宣伝をした。

 そうなのである。彼というか荻原兄弟は、れっきとした草津っ子。実家は、草津のバスターミナルにほど近い建材屋さんだ。

 元ノルディック・コンバインド選手。サッカー好きだという話を聞いた覚えはないが、とはいえ、人口わずか8000人の町に誕生したプロサッカークラブを、出身者が応援することに、嘘っぽさは微塵も感じない。

 草津といえばスキー。それに今回、サッカーが加わったわけだが、それ以上に誇れるのが温泉だ。とにかく、草津のお湯は素晴らしい。最近行った甲府にも温泉があって、5月7日の甲府対草津戦は、温泉ダービーと題して行われたようだが、率直にいって、温泉対決では草津に軍配が上がると思う。ザスパ草津の問題は、そのホーム戦を観戦しても、試合が前橋で行われるため、温泉には入れないことにある。いっぽう甲府は、スタジアムと温泉場が近距離にある。一石二鳥が楽しめる。「ザスパ甲府」でもいいくらい、サッカーと温泉は良好な関係にある。

 そんなこんなを思いながら、再びデスクトップの画面を眺めれば「大久保ゴール!」のタイトルが目に飛び込んできた。マヨルカは、格上のアスレティック・ビルバオと「ソン・モッシュ」でホーム戦を戦っていて、大久保が決めた得点は、4−3で勝利した試合の3点目だった。マヨルカがもし降格を免れれば、大久保は貴重な得点を叩き出した男として存在を知らしめることができる。来季、マヨルカに留まる可能性も膨らむわけだ。

 マヨルカ島は、風光明媚で食事も美味い。小洒落てもいる。サッカーと観光が高次元でセットになるお勧めスポットなので、僕はマヨルカが残留に成功し、大久保もチームに留まることを切に希望する。読者の皆さんにも是非お出かけ下さいと言いたくなる。大久保が試合に出なくても、空振り感はない。穴場は9月だ。遊泳可能な上に、宿も比較的取りやすいという。スペインやドイツで行われるチャンピオンズリーグ観戦とセットで組む、一石二鳥を狙う旅は、超お勧めである。

 夜が明けかかった頃、再びテレビのスイッチを入れてみた。生中継はなくても、録画ならあるかもと、かすかな期待を抱きWOWOWを選局すれば、画面には待望の緑のピッチが広がっていた。といっても試合は、マヨルカ対アスレティック・ビルバオではなく、前日行われたセビーリャ対レアル・マドリー。「サンチェス・ピスファン」で行われた一戦である。久保田アナと浅野哲哉解説者のコメントも上々だったが、試合内容はそれ以上に素晴らしかった。まさにハイレベルの接戦。スペインリーグの醍醐味を改めて思い知らされた気がする。同時に、郷愁にも駆られた。

 スペインリーグが上昇に転じたのは'98年。5月にマドリーが32年ぶりにチャンピオンズリーグを制したのが転機となった。そして、フランスW杯を挟んだ翌シーズン。僕は、チャンピオンズリーグの開幕戦を、このサンチェス・ピスファンで迎えた。対戦カードはレアル・マドリー対インテル。

 レアル・マドリーは、前シーズンの準決勝、対ドルトムント戦で、試合前にゴール裏のファンが暴れ、ゴールポストを折る不始末を犯していた。試合開始が大幅に遅れ、TV中継など運営に大きな支障を与えた。その結果、半径100キロ以上離れた中立地で試合を行うようUEFAから命じられたのである。

 レアル・マドリーがその時、なぜセビージャを選択したか。理由はセビージャが、スペイン国内では比較的「スペイン」に対し、寛容な土地柄であるからだ。スペイン代表が、セビリアで頻繁に試合を行う理由もそこにある。あの時も「スペイン」の象徴であるレアル・マドリーは、セビージャのファンに暖かく迎えられていた。それから7年経ったいま、セビージャは、チャンピオンズリーグ初出場を懸けた一戦を、レアル・マドリーとまみえている。逆にレアル・マドリーは、敗れた瞬間、バルサに優勝をさらわれる窮地に立たされている。因果を感じる。

 ちなみに当時、レアル・マドリーの監督を務めていたのはフース・ヒディンク。現PSV監督だ。彼は、そのシーズンの終盤、レアル・マドリーを去ったが、ヒディンク的なサッカーはその後、スペインリーグらしさの象徴として定着した。彼がスペインリーグ上昇の火付け役を果たしたことは間違いない。

 とはいえ僕は、試合を眺めながら、もっぱら過去を回想していたわけではない。セビージャ、アンダルシアといえば「ガスパチョ」。このトマトベースの冷製スープが試合中、何度も脳裏を過ぎり、その度に両アゴの付け根がむずがゆくなった。というわけで、セビージャを積極的に応援した。セビージャが、バチスタの同点ゴールで引き分けると、セビージャで本場のガスパチョを堪能しつつ、チャンピオンズリーグを観戦する旅に、想いは急速に膨らんでいった。

 やっぱりね、サッカーの旅は「サッカーだけじゃつまんない」のである。ザスパ草津の関係者に、特にその点は強くアピールしたい。日本一の温泉がサッカー観戦とセットになれば、少なくとも僕は年に2回は、草津に足を運ぶつもりだ。ザスパ草津のサッカーがいくら弱くても。

(※写真はマヨルカ島です)

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