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「狂人」を生むローマダービー。 

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酒巻陽子

酒巻陽子Yoko Sakamaki

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photograph byGetty Images/AFLO

posted2006/12/18 00:00

「狂人」を生むローマダービー。<Number Web> photograph by Getty Images/AFLO

 毎度お騒がせのローマダービー。12月10日に行われた今回は、ラツィオのデリオ・ロッシ監督が「勝利の証」とローマ市内の噴水に飛び込んだニュースで賑わった。

 試合終了から3時間後、ローマの市街地ジャニコロ地区に海水パンツで現れた指揮官が、クラブ関係者と地元警察官らが見守る中、水深60センチの噴水へダイビング。宿敵ASローマを3−0で下した喜びが寒さを感じさせないのか、指揮官は真夜中の水浴びを満喫した。

 感極まったサポーターが川や海に飛び込むのは日本でもよくある光景だが、「約束だった」とはいえ、監督が冬の噴水に「投身」したことはイタリアでも前例がない。

 ロッシ監督がイタリアサッカーの歴史に名を残したのは、単にこのパフォーマンスだけではなかった。激戦で知られるローマダービーではどちらかが圧倒するのは稀なことで、大差をつけての完封勝利はダービー初の快挙。イタリア杯でも1998年1月6日に行われた準々決勝第1戦で、ラツィオが4−1でローマに圧勝したゲームを思い出すぐらい。歴史を変えたロッシ監督は「約束」を口実にしていたが、嬉しさのあまり単に飛び込みたかっただけという説もある。

 イタリア国内にはローマダービーのほかに、ミラノダービー、トリノダービー、さらにメッシーナとレッジーナの間で海峡ダービーがある。とりわけローマダービーはその熱狂ぶりから「人を狂わせる」と言われている。ダービー出場26回と現役選手では最多記録を持つトッティでさえも狂人と化す。今年2月、試合中に大ケガを負っても冷静さを失わなかったのに、今回のダービーで見せたDFザウーリへのファウル(転倒した相手の股間をスパイクで踏みつけた)は鬼畜のような行為だった。

 しかし、セリエAの醍醐味が味わえると評判の高いローマダービーも、数シーズン前は「八百長試合」で評判を落とした。ケガというリスクを冒すことなく勝ち点1を得ることは、両チームにとって都合がよかった一方で、サポーターの信用を落としたことが観客数激減につながり、結局、選手たちは本気で戦う、つまり「狂人」になる道を選んだのだった。

 ただ今回のダービー、ラツィオは冷静だった。ダービー未経験者が多かったことで自分をコントロールできた選手が多く、高い集中力を見せていた。もちろん「対決」ムードはあったが、ラツィオの若い選手たちがその日持ち合わせた「通常の試合と同じ」という考え方が、勝利を呼び寄せたのである。

 つまりラツィオにいた「狂人」は、ロッシ監督ただ一人だったということだ。

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