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主役はメッシじゃない!?
~CL決勝プレビュー/データ編~
text by
小野正太郎(データスタジアム)Shotaro Ono (Data Studium)
photograph byTakuya Sugiyama
posted2009/05/26 18:00
バルセロナが貫徹を宣言するパスサッカーを封じるため、マンチェスターUが採るだろう対策はメッシを「封じない」こと。メッシが目立つ展開は、実のところマンチェスターUにとっては思惑通り。史上初の2連覇を目指す王者の策略に飲み込まれず栄冠に輝くため、バルセロナに求められるアプローチとは?
今季からバルセロナの背番号10を身にまとうメッシは、07年4月18日のコパデルレイ準決勝ファーストレグで見せた「5人抜き」など「マラドーナ2世」となぞらえられるドリブルに一層の磨きを掛け、チャンピオンズリーグでここまで11試合に出場し8得点とトップ。得点王の獲得は濃厚となっている(マンUのC・ロナウドやルーニーらは4得点)。06-07シーズンのカカ(ミラン、10得点)、07-08シーズンのC・ロナウド(マンチェスターU、8得点)と、過去の2シーズンは優勝したクラブから得点王が生まれており、バルセロナにとっては心強いデータだ。
だが、07-08シーズンのチャンピオンズリーグの準決勝セカンドレグにおいて、チームが自らのスタイルを見失い、メッシの突出した個人技に期待しすぎマンチェスターUに敗北を喫したことを忘れてはならない。
メッシのドリブル突破成功! しかし敗北したのはなぜなのか?
08年4月23日にカンプノウで行われたファーストレグを0-0で引き分けて迎えた08年4月29日のオールドトラフォードでのセカンドレグ。メッシは12回のドリブル突破を試み、うち11回の突破に成功(成功率は91.7%)した。グループリーグの初戦からファーストレグまでは、8試合に出場して58回(1試合平均約7回)のドリブル突破を試み、成功は33回(成功率は56.9%)だったことから、セカンドレグにおいては普段に増して積極的にドリブルを仕掛け、かつ突破に成功していたことが分かる(メッシを除くチーム全体のドリブル成功率は、グループリーグ初戦~準決勝ファーストレグまでの58.7%に対し、準決勝セカンドレグでは40.0%に低下していた)。しかし、それこそが「赤い悪魔」の思うつぼだった。マンチェスターUはメッシのドリブル突破を容認するのと引き換えにバルセロナのパスサッカーを封じ、序盤の14分にスコールズが挙げた1点を守り切り、2試合合計1-0で決勝への進出を果たしているのだ。
表を見ると、ペナルティエリアに進入した回数はほかの試合と差がなかったものの、その方法はパス主体でなくドリブルなど「パス以外主体」に変化している。パスによる進入を許してもらえない中で、メッシが突破「できてしまう」ゆえに、バルセロナは信条とするパスサッカーによる打開をトーンダウンさせてしまう。メッシにペナルティエリアへの進入を一任してゴールの可能性を探るものの、あらかじめそれを想定していたマンチェスターUの堅陣を崩すには至らなかった。
チェルシー戦からより多く学ぶのは、マンUかバルサか?
マンチェスターUは、バルセロナが敗退寸前にまで追い込まれたチェルシーとの準決勝セカンドレグを見て、昨季の戦略に改めて確信を抱いたはず。後半のロスタイム、エッシェンがペナルティエリア内で信じられないクリアミスを犯しさえしなければ、イニエスタのゴールは生まれておらず、序盤の9分に先制したチェルシーは「08年4月29日」と同様の展開で勝利をつかんでいたからだ。
ペナルティエリア内でのプレッシャーが極めて強いと予想される中、バルセロナがローマのスタディオオリンピコでスペイン勢初の三冠(リーガ・エスパニョーラ、国王杯の二冠は達成)を成し遂げるためには、準決勝セカンドレグで舞い降りた幸運を自身の手で起こすべく、ペナルティエリア外から得点の可能性をうかがう必要がある。
チーム内でペナルティエリア外から最も多くの枠内シュートを放ったのはイニエスタで5本。ボージャンが4本と続く。「赤い壁」突破の急先鋒は、メッシよりも中盤の一角を担うイニエスタやベンチスタートが予想されるボージャンの2人が適任か。