セリエA コンフィデンシャルBACK NUMBER
DFでもバロンドールは獲れる。
text by
酒巻陽子Yoko Sakamaki
photograph byAFLO
posted2006/12/05 00:00
今年のパロンドール(欧州年間最優秀選手賞)に、イタリア代表でレアル・マドリーのDFファビオ・カンナバロが選出された。パロンドールとはフランスのサッカー専門誌「フランスフットボール」が主催し、欧州52カ国の記者の投票で受賞者が決定するもので、FIFAの世界最優秀選手賞に並ぶ栄誉である。カンナバロは、主将としてドイツW杯制覇に貢献、さらに昨季まで所属していたユベントスでセリエA2連覇(注:昨季はセリエA不正問題によりタイトル剥奪)の原動力となったことが高く評価されての受賞となった。ディフェンダーの受賞は1996年のマティアス・ザマー以来10年ぶり。このたびは守備専門のセンターバックが価値あるタイトルを初めて手にしたこともあって、大きな反響を呼んだ。
「サッカーにはディフェンダーもいることを証明した」とカンナバロ。名手バレージやマルディーニさえ到達できなかった夢が実現した。つまりイタリアサッカーの伝統である「カテナチオ」が、カンナバロという門兵によって長い歳月を経てようやく認められたわけだ。
イタリア人に限らなければ、セリエAとパロンドールの絆はとても強い。1961年、当時ユベントスに所属していたFWシボリの初選出以来50年間で18回の受賞は、2位のスペインリーグの10回を大きく上回る。近年では2002年以降3年連続で受賞者を輩出した。「セリエAはつまらない」と世界中から酷評されても、優秀な選手を常に生み出す土壌であることに変わりはない。
9回で3位につけるブンデスリーガの受賞者がドイツ人で占められているのに比べ、セリエAは外国人選手の選出が大半。これは、欧州で一般的に労働者階級のスポーツと見なされるサッカーが、イタリアでは「産業」として扱われているからである。スペインリーグがここ10年間で5人の外国人選手によってパロンドールをゲットする「セリエA現象」を起こしているのは、スペインでもサッカーを「産業」とする志向が定着してきたからだろう。
移籍先のレアルで不調に苦しむカンナバロの受賞に、皆が賛同したわけではない。「フランスフットボール」のエルヌー局長は選出の要因として「フェアプレー」をあげた。つまり、W杯という長い大会期間中、相手のエースをマークする「ストッパー」であるにもかかわらず、一度たりともイエローカードを受けなかったカンナバロの姿勢は、サッカー選手の模範とされた。「ゴール数やファンタスティックなプレーだけではパロンドールに値しない」とエルヌー氏は続ける。現代サッカーに何よりも必要とされている資質──ルールを守るプレーが欧州サッカーの達人たちに尊ばれたのだ。セリエAの真髄である守備力とフェアプレーが、華やかな攻撃サッカーを超越した今回のバロンドール。51回目を迎え、黄金のボールを取り巻く環境も大きく変貌している。