セリエA コンフィデンシャルBACK NUMBER
月給20万円で契約したトンマージに期待。
text by
酒巻陽子Yoko Sakamaki
photograph byAFLO
posted2005/09/09 00:00
「サッカー選手は高給取り」の定義を根底から覆したのが、元イタリア代表でローマに所属するMFトンマージ(31)である。ローマ在籍9年のベテランは、リーグが開幕してから数日後に、1カ月1500ユーロ(約20万円)でローマと10カ月の契約を結び、残留を決めたのだ。
スペイン・バルセロナのロナウジーニョが、年俸650万ユーロ(約8億9000万円)と破格の待遇で契約を更新したというニュースが耳に入った矢先とあって、イタリア中が少なからず驚いた。なにしろこの月額1500ユーロ×10カ月=年棒15000ユーロという額は、工員の平均年間所得額に値する。さらに、この年俸額を、クラブ側ではなくトンマージが提示したことで話題騒然となった。
「1ユーロも値上げすることなく、最少額で契約更新したい」
イタリアサッカー協会とプロ連盟が選手協会との交渉で決められた最低額「1カ月1500ユーロ」を、トンマージは迷うことなく口にした。
2004年のプレシーズンマッチ(ストーク・シティ戦)で負傷退場し、膝の故障に泣いた昨年の屈辱を思い出しながら、不本意なシーズンに見合わない年俸を再び手中にすることを拒んだのだ。
「重荷にはなりたくなかった」
致命傷とまでいわれた膝の様態を承知の上で、ローマはトンマージとの契約を更新する方針を固めた。
そもそも、ローマがトンマージを残留させたのも、チームが勝つための必須要素である「協調性」を、セリエAきっての模範生である彼を通じて若手選手に浸透させるためであった。昨季、チームの活性化を図り、若手起用に踏み切った幹部の決断が、結局はリーグ終盤までチームがしっくりいかず、勝てない試合を繰り返すという逆効果を生んだ。
昨年逃した欧州チャンピオンズリーグの出場を手にするために、スパレッティ新監督をはじめ、今季のローマは「チームのために惜しみなく動く」を強調している。とりわけ、問題児FWカッサーノにはじまり、移籍願望の強いMFマンシーニ、そしてDFクフレ、キブ、メクセスなどセリエAの新参者のモチベーションを高めるにも、心技ともにチームの信望が厚いトンマージをチームの一員に加えることはチーム全体の底上げにもつながると、指揮官は期待する。
「復帰は絶望的」とまで伝えられたトンマージが、練習を再開した。トップクラスでの再起の見通しは立っていないが、「工員の所得」でも局面を打開できることを、セリエAの「パペローニ(カネにがめつい人)」に是非とも見せ付けて欲しい。