佐藤琢磨 グランプリに挑むBACK NUMBER
佐藤琢磨 グランプリに挑む Round 4 サンマリノGP
text by
西山平夫Hirao Nishiyama
photograph byMamoru Atsuta
posted2004/04/30 00:00
パドックに戻って来た佐藤琢磨は言葉少なだった。こっちも琢磨の気分を思うと、インタビューする気持ちが湧いて来ない。
残りわずか5周を8位で走行中、突然エンジンが大白煙を噴き上げ、ブローアップしてしまったのだ。第2戦マレーシアの悪夢の幕切れの再現に思えた。あの時は残り4周、やはり8位を走っていた……。
予選7位のグリッドからいつもどおり素晴らしいスタートを決め、モントーヤ、ラルフ、チームメイト同士の幅寄せ合戦の隙を衝いて、オープニングラップの佐藤琢磨はバトン、シューマッハー、モントーヤに次ぐ4位でグランドスタンド前に戻って来た。7位から4位へのジャンプアップなど簡単にできるものではない。
その後もラルフ、バリチェロ、トゥルーリらそうそうたるドライバーを後ろに従え堂々の4位をキープしていたが、1回目ピットストップから状況は一変する。
コースに戻った時、琢磨は8位にドロップしていたのだ。それまで後ろにいたドライバー達よりも給油時間が2秒ほど長かったのと、ピットストップ前後のラップタイムが遅いことが原因だ。だが、そうなったのには訳がある。
「オープニングラップは凄くよかったんですけど、その直後からギヤが勝手にシフトするようになったんです。何も操作しないのに3速から2速にダウンしたり、逆にアップしたり不安定で、ペースが作れなかったんですよ」
おそらくはギヤボックスの制御系のトラブルだろう。コンピュータと油圧でギヤ・チェンジするF1マシンならでは。マニュアル・ミッションなら起こりえない誤作動だ。
「最初のうちは2周に1回くらいの回数だったんですが、そのうち1周に3回も起きるようになってしまって……」
それ以降は我慢の走行になる。8位の1点は譲れない。ルノーやウイリアムズとコンストラクターズ・ランキング2位争いを続けるBARホンダ・チームのため、フォア・ザ・チームだけを考えて琢磨は走った。
しかし最後はエンジンの方が音を上げてしまった。
HRD(ホンダ・レーシング・ディベロップメント)の中本修平エンジニアリング・ディレクターはレース後「3速で加速中にギヤが勝手に2速にダウンしたら、エンジンがオーバーレブしてしまいます。ブローの原因はたぶんオーバーレブを繰り返したことでバルブなど駆動系が破損したのでしょう。逆によくあそこまでエンジンが持ったなぁとも思いますが」と語っていた。
流れに乗れない……これが第4戦サンマリノGPで佐藤琢磨を取材しての感想だ。
金曜日午後にはバトンに0.2秒差でシューマッハーを抑え2位。
明けて土曜日、午前中最後のセッションでは予選想定セッティングでアタックをかけ、サーキットの3分の2地点まではすばらしい区間タイムを記録。このままミスがなければいいところへ行く、と固唾を呑んで見守っていたら、行く手で他車がクラシュしてしまい、減速を命ずる黄旗が提示され、アタックは中断されてしまった。不完全燃焼のまま、レースは終った。
この時点でギヤボックスに不具合(ギヤの歯欠け)が見つかり交換。トラブルを未然に防げたのは良かったが、交換したそのギヤボックスにもまたトラブルが潜んでいたのだった。
次戦は陽光あふれるスペイン。2月のオフテストで“カラス”と呼ばれる黒いハイブリッドカーを操り、非公式ながらコースレコードを叩き出した相性のいいカタルーニャ・サーキット。
悪い流れを断ち切って、自己ベスト(5位)を更新する予選グリッドからカミソリ・スタートを決め、表彰台に上がって欲しい。今の佐藤琢磨なら、トラブルさえなければそれができる。