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「『勇気』。これだけです」 
赤星憲広、走り続けた9年間の矜持。 

text by

田口元義

田口元義Genki Taguchi

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photograph byKYODO

posted2009/12/14 12:15

「『勇気』。これだけです」 赤星憲広、走り続けた9年間の矜持。<Number Web> photograph by KYODO

「盗塁」ではなく「出塁」にこだわり続けた9年間。

 新人から5年連続で盗塁王になるなど、プロ入り後の赤星の活躍は語るまでもないが、彼がプロで一流になれたのは確固たる理念があったからだ。もっと具体的にいえば、「盗塁」よりも「出塁」への意識の高さにある。

「数にこだわりは全くないです。僕の理念は、盗塁を得点に結びつけること。毎年目標にしているのは出塁率4割。そのためには3割以上は打たないといけないし、達成できればチームの結果もついてくる」

 赤星のことを「勇気のある選手だ」と認識したのは、盗塁について話していたときだった。「足にスランプはありますか?」という問いに対して、彼は即答する。

「そりゃあ、ありますよ。僕のようなタイプは、調子が悪くても出塁して得点に結びつける走塁が求められます。盗塁も積極的にするわけですけど、例えばその試合で2回、失敗したとしますよね。そうすると、次に出塁したときに『次もアウトになったらどうしよう』と不安になる。そう思った時点でスランプですよね。じゃあ、盗塁に何が必要か? 『勇気』。これだけです」

身を削りながら、周りに勇気と感動と夢を与えてきた男。

 スランプとは弱さ。

 弱さを認めなければ強さを求めることはできない。

 根底に、「内角球を逃げず、三遊間にゴロを打て。出塁率を上げろ」という「野村の教え」がある。だから出塁率を高めるために'05年には打撃フォーム改造にまで着手した。

 外野守備でも縦横無尽に、そして勇猛果敢に打球に食らいついていった。引退を大きく引き寄せてしまった9月12日のプレーにしても、自らのセールスポイントを信じて疑わなかったからこそできたものだった。

 9年間、全力で走り続けた。

 走り続けた分、周りに大きな勇気を与えた。

 盗塁をするたびに福祉施設や病院に車椅子を、7年間で301台も贈呈したこと然り。

 なにより、身体が小さく、力はなくとも一流になれるということを、プロを目指す野球少年たちに教えてくれた。文字通り、身を削りながら。

 そんな赤星に、月並みだけどやっぱり「ありがとうございました」と言いたい。そして、「お疲れ様でした」とも。

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