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『ベッカム夫妻の真実!』の真実。 

text by

木村浩嗣

木村浩嗣Hirotsugu Kimura

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photograph byGetty Images/AFLO

posted2004/03/04 00:00

『ベッカム夫妻の真実!』の真実。<Number Web> photograph by Getty Images/AFLO

 『緊急特番!密着6か月 ベッカム夫妻の真実!』を見た。イギリスの放送局がクリスマスイブに放送したものを、日本テレビが2月21日にオンエア、そのビデオがスペインにもやっと届いたのだ。

 が、その番組で私が発見した“真実”は、「奥様のビクトリアはボウボウだった!」(番組中のコメントより)くらいだ。

 オンエア前の情報では、「ベッカムが夫人の太ももにスーッと手を伸ばし」とか「下着姿で何ごとか行為」とか「濃厚な抱擁やキスシーン」などの、“お楽しみ”があるという触れ込みだったのに……。過日スキャンダルとなった、あの「タクシーの中でズボンに手を入れるビクトリア」の写真を目にして、妄想を膨らませていた私の勇み足だったのか?

 ちなみに「ボウボウだった」のは、もちろん、足の毛のこと。ベッカムがスーッと手を伸ばしたのは「太もも」ではなく「ふくらはぎ」で、妻が毛深い(足が、です!)ことを衝撃暴露した。

「下着姿で何ごとか行為」というのは、ビクトリアがカメラの前でためらわず、カクテルドレスに着替えるシーンだろう。一瞬、確かにパンツ姿とノーブラの背中が映るが、だから何だって言うのだ!!! 私は今これを書いているアパートを、女子大生とシェアしているから、もっと“困った光景”をいくらでも目にして来た。大体、ヨーロッパの女の子たちはあっけらかんとしているから、あんなビクトリアだって、まったくノーマルに見える。

 「濃厚な抱擁やキスシーン」も似たり寄ったり。ホテルのバスルームで(着衣で、です!)抱き合いキスする姿を、カメラがとらえてはいる。が、あんなのスペインでは、カフェでも、広場でも、大通りでも1日に10回は目にする。もっと強烈なのを見たければ、天気のいい午後の公園に行けばよろしい。 

 まあ、以上のような内容でないと、イギリスでクリスマスイブに放送された訳がない。

 まじめな話、ビクトリアとベッカムのやっていることは、その辺にゴロゴロしている普通のカップルのそれだ。ガウン姿のビクトリアと野球帽を後ろ向きにかぶったベッカムが、ソファでいちゃいちゃしたり、痴話喧嘩をして見せたり、子供をあやしたり。本当に他愛ない。

 何であれで「50億円」(夫婦の年収。番組より)も稼げるのか? という怒りの疑問が湧いたが、考えてみれば、夫はグラウンド、妻はステージでの活躍が本職。そこを離れた私生活がノーマル過ぎるといって怒るのは、お門違いというものだろう。プライベートでのスキャンダルを芸とするゴシップ芸人では無いのだから。夫婦が普通の人たちで、その生活をまじめに報道する番組が退屈なのは、むしろ当たり前。“エッチ”とか“お宝”とか、色眼鏡で見ていた自分が私は恥ずかしい。

 日本テレビの番組では、イギリスの番組を切り刻み、映像と映像の間にスタジオのアナウンサーとゲストがコメントを挿入する、バラエティー番組の方式をとっていた。

「ボウボウだった!」とか「このあとベッカム夫妻がとんでもない事に!」とか、茶々を入れ、大袈裟な前フリをはさんで、何とか視聴者の興味をつなぐ。ドキュメンタリー映像だけでは持たない、という判断だったのかもしれない。私は、日本のテレビ局でブームとなっているノンフィクションのバラエティー化――たとえばサッカーや陸上の大会をバラエティー番組とすること――には反対だが、この番組なら許す。飽きっぽい私がビデオ早送りの誘惑に勝ち、最後まで見通すことができたのは、お笑い仕立ての趣向のおかげだったからだ。

 番組の途中で、ビクトリアの悪女のイメージを誇張したという、新曲のプロモーションビデオが流された。ベッドやソファの上で悩ましくのたうち回るビクトリア。それはドキュメンタリーに出てくる彼女よりも、遥かにセクシーで美しかった。「等身大」よりも「誇張」の方が、「真実」よりも「フィクション」の方が、断然、面白い。

#デイビッド・ベッカム

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