カンポをめぐる狂想曲BACK NUMBER
From:イングランド「憂鬱になるけれど。」
text by
杉山茂樹Shigeki Sugiyama
photograph byShigeki Sugiyama
posted2007/11/14 00:00
ヨーロッパで試合を観戦するには苦労が多い。
美味しくない機内食に、ユーロ高やポンド高。
しかし、それでも行きたくなる魅力があるのも確かなのだ。
ドル安が進行するいっぽうで、ユーロ高とポンド高の勢いは相変わらず凄まじい。物価は恐ろしいぐらい高い。日本のメディアが、なぜこの事実をあまり報道しないのか不思議でならないが、それはともかく、だからといって、日本から欧州へ向かう飛行機が、ガラガラだというわけではまったくない。どこも満杯。予約を入れることさえ難しい盛況ぶりなのだ。
「これぞ格差社会の象徴だ!」と大騒ぎしたくなるが、飛行機内の様子を眺めると、どうやら理由は、そういう話ではなさそうなことに気づく。席を埋めているのは、日本人より外国人の方が多いのだ。
物価が安い日本は、彼らにとって美味しい場所。とりわけ欧州人には、日本が天国に見えて仕方がないはずだ。5ユーロ(約800円強)以下で、ゆっくり腰掛けて、ご飯が食べられる国は、僕がサッカー観戦に通う欧州には見当たらない。彼らは日本の旅を、お得感を噛みしめながらルンルン気分で謳歌しているのだ。それって、悔しい話だと思いません? 大問題だと僕は思うのですが。
日本人と欧州人との間に、相反する思いが交錯するその機内で、もう一つ腹が立つことがある。機内食だ。質の低下はとりわけ近年目に余る。量的にも問題ありだ。お子様ランチと大差なし。どの航空会社も例外なくである。コンビニの480円弁当にさえ遠く及ばない安っぽさだ。人間を12時間近くも、自由の利かない場所に閉じこめておく状態としては、最低レベルのサービスだと言わざるを得ない。1人の人間として扱われていない気にさえなる。
食事のサービスは、離陸後と着陸前の計2回。とりわけ、2度目の食事には愕然とさせられる。貧しい餌を食わされている気になる。これが人間の食生活のスタンダードだとすれば、僕は別の生物に変身したくなる。
キャビンアテンダントが「和食にしますか、洋食にしますか」と訊ねるウチはまだいいが、配膳の順番が後の方になると、セレクトの余地はなくなる。満席で、運が悪いとどちらか一方が品切れになる。貧しい気分のうえ、不公平感も加わるのだ。たまったもんじゃない。
機内食を楽しみにしていた時代は、とうの昔に終わりを告げている。だったら、新幹線のホームではないけれど、搭乗口付近に、駅弁ならぬ空港弁を販売する売店を設置しろと言いたくなる。
「それはエコノミークラスだからさ。貧乏旅行のくせに文句言うな!」「悔しかったら、ビジネスクラスに乗ってみろ!」という突っ込みがどこからともなく聞こえてきそうなので、反論させてもらえば、ビジネスクラスの食事だって、たいしたことはないのだ。アップグレードして、ビジネスに座ることも時々あるが、感激はもはやない。うん十万円もする運賃に見合っているとは思えないのだ。こちらの食事も年々、粗食化が進行している。エコノミーよりマシという程度に過ぎない。
さらに文句を言いたくなるのが、航空券代とは別途に請求される燃油代だ。今回は、なんと4万数千円もした。原油価格が高騰したのは分かるが、ならば本来の、航空券代の内訳はなんだと言いたくなる。
「東京〜パリ9万8000円!」という宣伝文句を目にしても、踊らされてはいけない。空港使用税や燃油代が、それには含まれていないケースがほとんどだ。気をつけた方が良い。
もっとも世の中には、それと対照的な喜ばしい話もある。
チャンピオンズリーグに出場しているクラブは、記者に食事のサービスを提供することを、UEFAから義務づけられている。UEFAは、そういう意味で、とても素晴らしい組織なのだけれど、中でもイングランドの各クラブの、食事の充実ぶりは目を見張るものがある。華やかなパーティにでも出かけたようなバブルな気分にさせてくれるのだ。
サッカーそのものも華々しかった。チャンピオンズリーグのグループリーグ第4節でリバプールが8ゴール、マンUは4ゴール。その前々週の第3節でアーセナルも7ゴールを叩き込んだ。チェルシーの2−0の勝利を加えて、4試合で21ものゴールを目の当たりにした。イングランド勢は、まさにバブリーなサッカーを展開した。
その中で、特筆すべきはマンUになる。サッカーの質の話ではない。ディナモ・キエフに4−0の勝利を収めたものの、内容的にはイマイチ。優勝候補の本命だという気にはなれないサッカーをした。でも、面白かった、というよりおかしかった。選手のキャラが、である。
クリスティアーノ・ロナウドには笑えた。自分が掛けたフェイントに自分が掛かってしまう姿には、スタンドからも失笑が漏れたほど。これにテベスもいれば、ルーニーもいる。攻撃陣はただならない個性の選手で固められている。片やきまじめなサッカーをするディナモ・キエフは、その“お笑いサッカー”に吃驚仰天、してやられた感じだ。
雨のち晴れのち曇りのち雨。リバプール&マンチェスター地方は、空模様が目まぐるしく変化する不安定な天候だった。気温は低めで風も強い。というわけで、丈夫が取り柄の僕もすっかりグロッキー。ノドはヒリヒリで鼻もグシュグシュだ。
これから、満席であるに違いない日本行きのフライトに乗り込むことを考えると、少しばかり憂鬱になる。でも、それでもまたこの場に戻ってきたいという気分は、人一倍強い。いろいろなことについて、文句は山のようにあるけれど。サッカーは恐ろしいスポーツだ。